Interview
caroa inc.
Creative Direction by Maehara Takahiro,
Interview & Writing by Ishida Tetsuhiro,
Content Editing by Hayashida Mika,
Photography by Tano Eichi
2025.07.08
良いデザインは、対話から生まれる。関係性を耕し続けた4年間
Creative Direction by Maehara Takahiro,
Interview & Writing by Ishida Tetsuhiro,
Content Editing by Hayashida Mika,
Photography by Tano Eichi
2025.07.08

取材当日、取材現場に現れたのは、長身でどこか寡黙な印象を漂わせるひとりの男だった。
株式会社caroa(カロア)代表・葉栗雄貴。
同行していたメンバーと交わす軽やかなやり取りに、場の空気はすぐにやわらいでいく。
照明をひょいと外すその手を見て「やっぱり大工になれましたよ」と冗談を飛ばすメンバー。それに「重いものは苦手なんです(笑)」と返す葉栗さん。笑い声の中に、信頼と余白が滲んでいた。
BtoB/SaaSのスタートアップを中心に、カロアは"関係性"を起点にしたデザインを手がけてきた。事業理解に根ざした設計、情感を帯びたアウトプット、そして「すべての関係者を主役に」という思想。
その中核には、「かつてチームクラッシャーだった」と自ら語る葉栗さんの、ある変化の物語がある。
ぶつかり合ってばかりだった過去。一つひとつの言葉と向き合い続けた日々。
4年間かけて耕されたチームとカルチャーは「よいデザインは、よい関係性から生まれる」という、ひとつの答えにたどりついた。

01 / 04
空回りし、軋轢を生んだ「愛」
「葉栗とのコミュニケーションを考える会議」──。
かつて所属していた会社では、そんな目的のもと、チームで話し合う場が設けられていたという。
「正式にそういう名称がついていたわけではありませんが、実質的には僕との関わり方を考える会だったと思います」と葉栗は苦笑する。「プロダクトチームのメンバー全員で、よりよい関係性を築くために、定期的に話し合いの機会を持ってくれていたんです」
現在でこそ、約20名のパートナーと協力しながら、やわらかい世界観のWebサイトも生み出している葉栗。だがその印象に反して、「もともとは激しめなタイプだった」という。
「なんでも前のめりに提案しては喧嘩を起こす、チームクラッシャーでした。『これやった方がいいんじゃないですか?』『これもやりましょうよ!』って。いわゆる“噛みつくタイプ”だったんですよ。
当時お世話になった上司とはいまでも会いますが、『まあまあ。そういう時代もあったね(笑)』と言われます」
これは熱量の裏返しともいえる。
葉栗は新卒で展示会のブースなどをデザインする会社に入社後、プログラミングを学んでエンジニアに転身。当時10人規模のBtoBマーケティングの事業会社・スマートキャンプの創業期に飛び込み、デザイナー、PMと職種の垣根を越えて奮闘した。
その情熱と推進力は、時に周囲との軋轢を生んだのだった。
「根底には愛があったと思うんです。ただ噛みついてたわけではなくて、きちんと熱を込めて、相手のことを想って発言しているつもりでした。
だけど、圧倒的に伝え方がよくなかったんだろうなと」
2025年4月、葉栗はカロアパートナーの伊藤優汰とともに一冊の書籍を出版した。『Web制作のための、発注&パートナーシップ構築ガイド』(ビー・エヌ・エヌ)と題されたこの本には、「よいデザインは、よい関係性から生まれる」と記されている。
つまり葉栗が初の自著でテーマにしたのは、コミュニケーションと「他者との関係性」だった。
「やっぱり僕はコミュニケーションに苦手意識があるんですよね。だからこそ、きちんと言語化したり、一つひとつの自分の言動に意識を向けるよう気をつけていて。
それが本という形になったんだと思います。かつて一緒に働いてた人がこれを見て驚いていました。『そんなこと言えるようになったの?』って」
「自分を変えてくれたのは、前職時代に自分に向き合ってくれた、恩師とも呼べる上司や代表の存在だった」と葉栗は言葉を続ける。
IメッセージとYouメッセージの違い、自分が思っていることと相手の受け取り方のギャップ、ユーモアを豊富に交えながらも、時には真面目で筋の通った発言もするバランス……。
数百人規模まで組織を成長させたリーダーたちに共通していたのは、トップダウンではない、人の話を聞き、共に考えるコミュニケーションスタイルだった。
取材に同席していた業務委託のパートナーによれば、現在カロアでは、葉栗が定期的にメンバーと1on1を行っている。
プロジェクトの進め方、キャリアの希望、言いづらいことも含めて丁寧に話を聞く。かつてのチームクラッシャーの面影は、そこにはない。

02 / 04
事業視点を突き詰めて生まれた「振り幅」
BtoBマーケティングの事業会社出身という葉栗のキャリアは、2020年のカロア創業後の仕事の方向性にも影響を与えた。
数々のスタートアップがすぐにクライアントになったが、カロアを選ぶ理由はシンプルだった。顧客に近いバックグラウンドがあることで、解像度高く相手のビジネスを理解できるためだ。
転職サイト「ONE CAREER PLUS」の恒例企画「キャリアの地図」は、そうした強みが存分に活かされた事例のひとつだと言えるだろう。
「制作会社って言い方はあんまりしたくない気持ちもあって」と葉栗は語る。
それは当然かもしれない。スマートキャンプ時代には、自ら事業会社の成長のためにエンジニア、デザイナー、PMと職種の垣根を越えて働いていたからだ。
「前職で得られた経験の中でも、特に大きかったのが“ビジネス視点”です。
納品して終わりではなく、そのアウトプットがビジネスにどう貢献したか、どんなインパクトがあったのか。
そこまで見届ける姿勢は、今の仕事にも大きく影響しています」
また事業会社では、仕様変更も日常茶飯事だ。
ウォーターフォール型の進行が基本の制作業界において、事業の成長に合わせたアジャイルな変化に寄り添えること。
それは相手のビジネスを自分ごととして捉えられるカロアならではの価値だ。
「なんでこんなに変わるんだ、話が違うじゃないか……と思うときもなくはないですが、実際に中で働いていたら分かります。
数値を追いかけていれば、施策が変わるのは当たり前。そのスピード感を肌で知っているから、僕たちは柔軟に対応できるんです」
この事業視点が、カロアの支援に「振り幅」という強みをもたらしている。
BtoBサービスの骨太な情報設計から、スタートアップのように柔軟性が求められる開発、4周年記念サイトのようなグラフィカルで遊び心溢れる表現まで。
葉栗はUI設計や相手のビジネスへの理解を得意としている。
それを共通基盤としながらも、表現豊かなデザイナーやディレクターがパートナーに加わることで、事業へのインパクトと、多種多様な世界観のデザインを両立できるようになった。

03 / 04
「ギルド組織」という選択、
20人のパートナーと育むカルチャー
正社員2名、業務委託パートナー約20名。カロアの組織構成は、一般的な制作会社とは異なるかもしれない。
この一見アンバランスな構成こそカロアの強さの源泉となっているが、じつは戦略的に設計されたものではなかったという。
「最初は仲間集めから始まりました」。創業当初、Web業界の経験が浅かった葉栗氏は、自身の限界を素直に感じていた。
グラフィックが苦手、営業や提案の仕方もわからない。だからこそ、仲間が必要だった。
「『キャリアの地図』のビジュアルデザインを担当した石川も、最初はバナー制作担当で入ってもらったんです。すると後々判明したんですが、『あなたサイト作れるの?』という出来事があって。『こっちの方がうまいじゃん』って」
計画的な採用ではなく、一緒に仕事をする中で互いの強みを発見し、役割が自然と広がっていく。このプロセスが、カロアの組織文化の原型となった。
さらにカロア創業の背景には、Studioの存在もあったという。
「僕はもともと会社員時代に副業はしていましたが、フリーランスとして独立したいという想いはゼロでした。というのも、個人で突っ走るのはあまり得意じゃないし、どこかのチームやコミュニティに属していたいタイプなんですよね。
自分ひとりのスキルには限界も感じていたので、最初から“誰かと一緒に働ける場所”をつくりたいと思っていました。
だから会社にしようかと思っていた矢先に、2020年11月からStudioのパートナー制度の募集が始まって。これが、翌12月にカロアを創業する後押しになりました」

創業時から葉栗は『愛される。をもっと。』という言葉をパーパスに掲げている。「愛される」デザインを作り続けて4年。
かつてチームとの関係づくりに苦労していた立場から一転、いまや20名のチームをボトムアップに束ねるリーダーとなった。
「現在カロアに関わってくれているメンバーは、全員やわらかいタイプなんですよね。逆にイケイケで尖ったクリエイターみたいな人は少ない。柔軟で、優秀な人たちが集まっています。むしろ僕のほうが、いつもふざけたことを言うキャラクターになってますね」
対話を重視し、個人の手柄よりもプロジェクト全体の成功を考える。
そんな価値観を共有するメンバーが自然と集まった結果、業務委託かつリモートワーク主体でも定期的にコワーキングスペースに集まり、半期会ではみんなでカードゲームに興じるような、温かみのあるチームが生まれた。

04 / 04
すべての関係者を「主役」に。
カロアが描く未来
「誰もが主役になれて、誰かを主役にもできる。」
これはカロアが掲げるビジョンだ。一見温かみを感じるこのビジョンは、他方で汗水を流した制作関係者たちに光が当たらない構造に対する、静かな抵抗でもある。
「Web制作のプロジェクトにおいて、関わるメンバーたちは『裏方』扱いになりがちですよね。
そうではなく、プロジェクトメンバー全員が『自分がちゃんとやったんだ』という自負を持てる、『主役』になれる仕事をしたいという想いから、この言葉は生まれました」
もちろんクライアントワークを生業とするカロアにとって、「主役」にしたいのは自分たちのチームメンバーだけではない。
ONE CAREERの「キャリアの地図」は、その象徴的な事例でもある。
2020年に試験的に始まったこのプロジェクトは、翌年には社内で高く評価され、事業が正式版へと昇格。担当者自身も社内で認められることとなった。
「カロアに依頼してくれて、一緒に仕事することで、クライアントの担当者までも主役になれる。相手の会社やプロダクトもどんどん良くなっていく。それってすごくいいなと思ったんですよね」
とある金融系企業の採用サイト制作プロジェクトは、このビジョンをさらに深めた。カウンターパートの担当者は新卒数年目の若手。
「彼女を成長させたい、という想いを先方の上長から感じたんです」。
カロアにとって、Webサイト制作はアウトプットだけでなく、サイト制作のプロセスにも価値がある。単なる受発注の関係に留まらずに、プロジェクトマネジメントや採用戦略まで一緒に考えていく。
その中で、自分の会社や事業、働く人たちの価値を見つめ直す。それ自体が、クライアント企業にとって積み上げの効く「資産」になるという。
だからこそ、この採用サイト制作プロジェクトは、担当者が制作プロセスで自社にしっかりと向き合い、成長していくための時間になった。
「大変な局面もあるプロジェクトでしたが、『関わる人たちが成長できた』という評価のお言葉をいただいたとき、すごく嬉しくなりました。
また、その後もカロアのメンバーに『どうしたらいいと思いますか?』と連絡をくれるなど、良い相談相手になれたと感じるときも、本当に良かったなと思う瞬間ですね」
こうした関係性こそ、カロアが目指す「共創」の本質と言えるかもしれない。ビジネスを「自分ごと」として捉えてクライアントの懐に飛び込み、一緒に悩み成長していく。
プロジェクトメンバーも、クライアントも、エンドユーザーも。関わるすべての人が主役になれる形があるはずだと。
「主役」と「愛」。他者との関係性、コミュニケーションに悩み抜いたからこそ、いまのカロアの姿がある。
「デザインで可能性を引き出すパートナー」として、カロアは今日もクライアントの悩みに真摯に向き合っている。