Interview
RYDEN
2026.2.10
“自分の足で立つ“と決めた僕らが、尊厳を持って生きるために。RYDENが示すクリエイターの矜持
2026.2.10

Profile

井上 雄一郎
RYDEN Inc. 代表取締役 / ブランドプロデューサー

松野 寛太
Designer / Art Director
Web制作の黎明期から第一線を走り続け、創業17年目を迎えた株式会社ライデン(以下、RYDEN)。大手クライアントのパートナーとして独自のポジションを築いてきた同社が、2025年、Studioを使った自社サイトの全面リニューアルで話題を呼んだ。
フルスクラッチでの高度な実装力を武器にしてきた彼らによる今回のサイトは、ノーコードツールで制作されたとは思えないほどの表現力を持つ。その制作の裏側には、代表・井上雄一郎が2021年頃に掲げた「個人事務所スタイルからの脱却」、そして「資本主義の中で尊厳を持って生きたい」という想いがあった。
「一人ひとりが独立して、ピンになっても生きていけるような、強いやつらの集団にしたい」
そう語る井上と、新卒入社から4年で同社の主力クリエイターとなり、本リニューアルのデザインを担当した松野。二人の対話から、これからの時代を生き抜くクリエイティブ組織のあり方に迫る。

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「個人事務所からの脱却」を掲げて
RYDENが設立されたのは、今から約17年前の2009年。
当時はFlash全盛期であり、Web業界にはトップクラスの制作会社やクリエイターがひしめいていた。そんな中で井上は、会社の生存戦略として現実的な路線を模索するようになる。
「発注側のクライアント企業が『レベルが高い仕事をどこに頼もうか』と考えたときに、どうしても1番目の候補に挙がる、最強のクリエイティブ力を持つ企業は存在するんですよ。そこに割り込もうと競合すると、最終的に力尽きるまで寝ずに働き続けることになる。
そこまで疲弊しながらクリエイティブをやり続けることに意味があるのだろうか。そういう土俵で勝負しようと思ってRYDENを立ち上げたわけじゃない……そう考えた末に、トップランナーに匹敵するぐらい『この会社ならレベルの高い仕事もやってくれる』と思われるイメージは目指しつつ、同時に自分たちが生き残り続けられるような会社を試行錯誤しながらつくってきました」
プロデューサーである井上自身、アートディレクター、フロントエンドエンジニア、バックエンドエンジニア。これらの職種がワンストップで揃い、企画から開発までを完結できる体制を武器に、大手広告代理店からの信頼を獲得していった。
しかし、RYDENはひとつの技術的な転機を迎える。当時Webサイトの動的表現を支えていた「Flash」の終焉だ。

「Flashがなくなったとき、Webクリエイティブというものは一度死んだと僕は思っています。この先どうなっていくのか、業界全体が暗中模索のなかで僕たちの会社も一瞬死んだわけです。それでも、目の前にある一つひとつの仕事に向き合い続けてきた。人の縁に支えられながら踏ん張ってきた結果、少しずつ未来が拓かれていきました」
そうして10年が過ぎた頃、井上は改めて会社のあり方を考え始めた。RYDENという名こそあれど、その実態は井上の「個人事務所」に近くなっていたのだ。
「どれだけスタッフが増えても、結局は僕が『頭』で、みんなは『手足』という構造から抜け出せていなかった。一緒にやってくれている人たちが頑張っているからこその会社なのに、実質『株式会社イノウエ』になっている。それは避けたかったんですよ。みんながガンガン成長して、その人たちが目立って、あくまで僕は挑戦を生み出す土台として、RYDENを支えるのが理想だったので」
2021年頃、井上は「個人事務所スタイルからの脱却」を最優先課題として掲げる。目指したのは、トップがずっと頭を張り続け、スタッフがアシスタントのまま終わるような組織ではない。一人ひとりが独立して生きていけるような「ツワモノの集団」への転換だった。
だが、この方針転換は大きな苦難も伴った。
「当時、若い人たちをたくさん採用して育てようとしたんですが、これが本当に大変だったんです。『育てよう』と思っても、そう簡単には育たない。個人事務所からの脱却って、口で言うほど簡単じゃないんだなと、身をもって痛感しました」
採用した若手の多くが去っていく中、数少ない生き残りが、今回のサイトリニューアルでデザインを担当した松野だった。

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既存の枠に収まりきらなかった僕たちが生きられる場所
今回のWebサイトリニューアルを担当した松野は2000年生まれ。大学でデザインを学び、新卒でRYDENに入社した。スーツにネクタイ、毎朝8時の出社、上下関係——いわゆる「普通の会社」とされる働き方が、彼には自分の姿として想像できなかったのだという。
「人それぞれ向き不向きはあると思うんですが、僕の場合は、腑に落ちないルールに縛られる働き方を続けていく自信が持てなかったんです」
4年前に公開した自社のnoteで、井上はRYDENのことを「人並み以上のスキルはあるけど行き場のない社会不適合なミドルエイジが集まって設立した会社」と表現している。そんな環境に新卒で飛び込んだ松野は、岡野というアートディレクターの下でクリエイティブのイロハを学んでいく。
「岡野さんが作るもののクオリティが、とにかく高かったんです。『このレベルのものを出さなきゃ、RYDENの仕事としては認められないんだな』と、そのときの感覚を基準として持っていて。いまでも『どうすれば、あの完成度のデザインに到達できるのか』と自分に問いかけながら仕事しますね」
そんな松野もまた、RYDENには「普通」に馴染めない人間が集まってくる傾向を感じると語る。そしてRYDENの空気感をこう表現する。
「やはり、RYDENは他の会社よりアウトサイダーな気質の人が多いんですよね。井上さんがそれを象徴していて。ただ、RYDENに入社したときから思っていたんですけど、なぜだか嫌な人がいないんですよ。僕にとっては居心地が本当に良くて。だから、いわゆる普通の社会人にはなれない僕でも、5年目になる今でも居続けられているんだと思います」
一方、その自由な空気感を守るために、その条件として要求されるプロフェッショナル精神も高いと井上は語る。

「世の中には2種類の人がいると思っています。金曜日の夕方5時に『これが自分の100点だ』と思って手を止める人と、『いや、もっとジャンプできるはずだ』と土日も考え続けられる人。前者と後者では、たどり着く場所が全然違います。長時間働けと言いたいわけじゃなくて、『本当にこれが自分の100点なのか?』と問い続けられるマインドセットを持ってほしいんです」
そうして新卒入社した若手が去っていき、気づけば自分一人になっていたことは、松野にとってひとつの転機だったという。
「焦りは別になかったですね。なんならチャンスだし、もっと頑張ってみようかなと。それがスイッチが入った瞬間でした」
RYDENという組織は、既存の枠から外れそうな人々が、クリエイティブへの情熱と矜恃を持って集う場所だ。ここで生き残っていくためには、誰かの指示を待つのではなく、自分の意思で「100点」のさらに先を目指せるかどうかが重要となる。松野はその環境を選び取り、自らの足で立つことを決めた一人だった。

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「尊厳ある資本主義」を目指して
しかし「居心地のいい場所」だけでは生きていけない。特にクリエイティブ業界は、国の基幹産業でもなければ、法的に手厚く保護される対象でもない、と井上は続けて語る。
「僕たちの業界が国に払ってる法人税なんて、他の業界からすると大したことないんですよ。国からしたら、クリエイティブ業界なんて別にあってもなくても困らない。手厚く保護される理由がない業界なんです。だけど、それでもここでやっていきたいなら、僕たちは自分の力で稼げるようにならないといけない」
日本の労働基準法は、労働者の権利を守るために「時間」を区切ることで働く人を保護する考え方を基盤としてきた。とくに製造業をはじめ、工場で時間を対価に働くシステムにおいては、労働時間の管理が労働者を守ることに直結する。
一方、クリエイティブの仕事は時間と成果が必ずしも比例しない。まだ実力のない人間に対して、一律に「労働時間の枠」を当てはめてしまうことは、その人が没頭し、実力をつけて突き抜ける機会を奪ってしまうことになりかねないのではないか。そう井上は課題提起する。
生き残れるかどうかは、自分次第。法律も守ってくれるとは限らない。
その業界で、どう働いて生きるのか。井上は「尊厳ある資本主義」という言葉を掲げる。

「どのみち資本主義の世界の中で僕らは生きていかなきゃいけない。だったら、ちゃんと尊厳を持って仕事したいんですよ。
僕は下請け根性が嫌いなんです。予算がないから仕方ないとグチグチ言いながら仕事をする。それは自分の人生に対して誠実じゃない。発注者とフラットな立場で向き合って、尊厳を持って仕事したい。そのためには、個としての実力をつけないといけないと思うんです」
尊厳を持って仕事をするためには、実力がいる。実力をつけるためには、自分の限界を超える努力がいる。そんな環境下で、RYDENは社会の枠に収まらなかった人間たちが尊厳を持って生きられる場所であろうとしている。

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2026年、そしてその先へ
「クライアントの利益に貢献する」
2025年、RYDENが公開した新しいコーポレートサイトには、そんな一文が掲げられている。今回のリニューアルにおいて、井上がサイトの軸に据えたのはこのシンプルなステートメントだった。
かつてのサイトは、業界内でのプレゼンスを示すためのハードコアなデザインで構成されていた。しかし、組織としてのフェーズが変わり、直接取引が増える中で、井上はその「見られ方」に限界を感じていたという。
「前のサイトは、同業者が見れば『すごい』となるけれど、普通の企業の担当者が見たら『怖そう』『言うことを聞いてくれなさそう』という印象を持たれていました。広告代理店を介さない、直接取引の仕事が増える中で、自分たちが目指している方向と、サイトの実態が乖離していたんです」
だからこそ、今回のリニューアルではデザインよりも先にこの「ステートメント」が作られ、サイト全体の軸に据えられた。
「企業がWebサイトにかけている費用は、貸借対照表に載らない“ブランド”という資産への投資です。それに対するリターンを返すために、あらゆる方法を考えて伴走することが僕たちの仕事だと思うんです。
いち制作会社として『お金をもらって作りました、あとは知りません』というのはクライアントの投資に対して全くコミットしていない。ブランドという目に見えない資産を可視化して、クライアントの利益に繋げる。そのメッセージを新しいサイトで伝えたかったんです」
そうしてリニューアルした後、RYDENは今後どのような未来を描いているのか。井上が構想しているのは、従来の「会社組織」の枠組みを超えた会社のあり方だ。
「正社員が全員集まっているという会社形態が、時代にフィットしてるのかなと疑問に思うんです。雇用契約があるかないかとかあんまり関係なくて、1つのプロジェクトを成功させようっていう意志のもと集まっているのであれば、それが1つの会社じゃなくてもいい。むしろそうじゃない方が、より大きなリターンをクライアントに返せるとすら思っています」

ネットワーク的に繋がりながらも散らばっている優秀なクリエイターたちが、クライアントにとってベストなチームを編成してプロジェクトを進める。クリエイター自身にとっても自由な人生を送れるし、クライアントにとっても価値の高いアウトプットを手に入れられる。そうした働き方の実現が今後のテーマだと井上は語る。
また、新卒入社から頭角を現すまでに成長した松野も、今後の未来について考えられるようになってきたという。
「結局、RYDENが好きだからここで働き続けてるんです。最近、社内でも『RYDENをもっとこうしていきたいね』という話をしていて。今まではRYDEN=井上さんというイメージがありましたが、自分自身がもっとRYDENを引っ張っていきたいなと、最近は自分から思えるようになってきました」

個人事務所からの脱却を掲げて4年。井上が目指した独立した「ツワモノの集団」は、少しずつ形になり始めている。
「間違っていてもいいから、自分の頭で考えて、答えを出して、行動する。そういう人たちがもっと増えれば、クリエイティブ業界はもっと面白くなると思うんです」
たとえ誰かの決めた枠に収まらなかったとしても、自分の意思で立つことを選び続ける。
「その覚悟があるか」と、井上は今日も檄を飛ばす。

baigie inc.
井上 雄一郎(Inoue Yuichiro)
RYDEN Inc. 代表取締役 / ブランドプロデューサー
ビジュアルデザイン好きが昂じて就いたグラフィックデザイナーを起点に、インターネット黎明期からプランナー/プロデューサーとしてキャリアを積む。2009年のRYDEN設立後は、主に広告業界におけるセールスプロモーション領域のデジタルクリエイティブを担い、グラフィックデザイナー + Webデザイナー + Webコンテンツプランナー + SPプランナー + Webプロデューサーという複数の経験値をもとにさまざまなプロジェクトをプロデュース。
現在はブランドの側面から企業価値を上げるためのコンサルティング、プロデュースを行う。
松野 寛太(Matsuno Kanta)
Designer / Art Director
2000年埼玉県生まれ。大学でデザインを学んだのちRYDENへ入社。バナナマンとバスケとチキンオーバーライスが好きです。
制作したWebサイトを見る
Website Creators
Producer / Copywriter:井上雄一郎(RYDEN)
Art Director / Designer:岡野真也(PIKABIA Inc.)
Designer:松野寛太(RYDEN)
Frontend Developer:三井ソウ
Photographer: 中田 昌志
Hair & Make:上地 可紗
Editorial Team
Interview & Writing by Ishida Tetsuhiro
Content Editing by Hayashida Mika
Photography by Tano Eichi


































