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Interview

IT+

Creative Direction by Maehara Takahiro,
Interview & Writing by Ishida Tetsuhiro,
Content Editing by Hayashida Mika,
Videography by Tamba Osamu,
Photography by Uchino Hideyuki

2025.05.28

求めたのは、理想の仕事と働き方、幸せに生きること。

Creative Direction by Maehara Takahiro,
Interview & Writing by Ishida Tetsuhiro,
Content Editing by Hayashida Mika,
Videography by Tamba Osamu,
Photography by Uchino Hideyuki

2025.05.28

 ALTはじまり:二人の男性が水辺の桟橋に立っている様子。左側に代表取締役CEOの野口和央、右側にアートディレクター/デザイナーの溝口耕太が立ち、お互いの顔を見ながら話をしている。ALTおわり

"自由な働き方ができる範囲で、自分たちが納得できる仕事をしていくことが大事だと思うんです"

野口和央×溝口耕太 (IT+)

「幸せに生きる。ってなんだろう。」

真っ先に目に飛び込んでくるこの印象的なメッセージを掲げ、Studio Design Award 2024でグランプリを受賞したWebサイト「旅と仕事と」。制作したのは、コンサルティングとクリエイティブを横断し、Web制作を中心に多種多様なデザインを手がけるアイティプラスだ。

「旅と仕事と」は代表取締役CEOの野口和央とアートディレクター/デザイナーの溝口耕太のふたりが世界一周中に出会い、同社を共同創業し、家族や仕事に向き合いながら活動してきた10年間の軌跡を伝えるサイトとして生まれた。

眺めているだけで、ふたりの旅路をともに追体験している気持ちになる同サイトには、アイティプラスのことをもっと知りたい、彼らと実際に話してみたいという気持ちを引き出す、まさに情報デザインの粋が詰まっている。

いまや同社は、Web制作をはじめとしたクリエイティブにおける高い技術力を持つだけでなく、複数の事業も同時に展開している。広島県尾道市で醸造するクラフトビール「しまなみブルワリー」や、多肉植物のECサイト「tawawa」などが例に挙げられる。

(※しまなみブルワリーのWebサイトは、Studio Design Award 2024で別途ノミネートされている)

彼らはなぜ、創業10周年を振り返るサイトを制作したのか。そして、Studioをどのように活用しながら、新しい働き方、生き方をデザインしてきたのか。

その軌跡を聞くため、彼らの拠点のひとつ・広島県尾道市を訪れた。

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出会いはペンションアミーゴ。
幸せの形を求めてたどり着いた尾道

広島県尾道市は、アイティプラスが参画する事業「しまなみブルワリー」の拠点だ。東京を拠点に活動しつつも、ふたりなりの「幸せ」を追求した結果、行き着いた場所のひとつである。

瀬戸内海における海運の要所として栄えた港町・尾道には、「海の川」とも称される尾道水道が対岸の向島との間に流れている。一方で急勾配の山々にも隣接し、活気のある商店街や、「猫の細道」と呼ばれる野良猫がたむろするエリアなど、さまざまな顔を見せる町でもある。

醸造所「しまなみブルワリー」のデザインにも、そんなゆったりとした尾道の空気感がラッピングされている。

取材チームは、野口と溝口に案内されながら尾道の街並みを散策した。その道中、まずはアイティプラスの軌跡を辿る最初の一歩目として、ふたりの出会いについて話を聞いた。

ALTはじまり:尾道水道沿いの道を、アイティプラスの二人が並んで歩いている様子。ALTおわり

溝口「僕たちの出会いは、メキシコにある日本人宿『ペンション・アミーゴ』でした。そのときはふたりとも夫婦で世界一周をしていて、たった1日宿泊日が重なり、ほんの数時間会話しただけでした。

初対面での野口の印象は、PCに向かっていてクールな人。だけど、アフリカ

の巡り方について相談した途端の『絶対ツアーに行くべき』というプレゼンテーション力がすごくて(笑)。帰国後に夫婦揃って4人で飲み会をすることになって意気投合したのですが、まさか一緒に起業することになるとは思いませんでしたね」

世界一周中に出会い、意気投合したふたり。旅をはじめる前は外資系IT企業で営業部門のマネージャーを務めていた野口と、デザイン事務所でグラフィックデザイナーとして働いていた溝口。ビジネスとデザイン、それぞれの強みを掛け合わせてアイティプラスは2014年に誕生した。

その後、クライアントワークで確保した資金を元手に、これまでにいくつものプロジェクトを立ち上げ、試行錯誤を重ねてきた。そこから生まれたヒットのひとつが「しなまみブルワリー」だ。

同事業の発端は、山梨県で地ビール「TOUCHDOWN」を醸造する八ヶ岳ブルワリーとのプロジェクトでの出会いだった。居酒屋でよく耳にする「とりあえず生!」という言葉から着想を得て生まれた、1杯目専用生ビール「ファーストダウン」の立ち上げで4人でチームを組んだ、ヘッドブルワー・松岡風人氏とクリエイティブディレクター・杉野正和氏が、ともに広島県出身だったのだ。

ALTはじまり:しまなみブルワリーの醸造所入り口にある、しまなみブルワリーのロゴ。瀬戸内海の雰囲気を感じる爽やかなブルーカラーの機械に、白い色でロゴが印字されている。ALTおわり

「いずれは地元の広島で仕事をしたい」という松岡・杉野の言葉を受け、アイティプラスのふたりは彼らが企画するクラフトビール醸造所立ち上げプロジェクトに参画する。ブランド力や街並み、海があること、ネーミングといった観点から、尾道が候補に挙がるまでにそう時間はかからなかった。

溝口「ただ、私も野口も、最初は『尾道という名前は知っている』程度だったんです。初めて電車で尾道駅に降り立ったときに、目の前に海や運河が広がっていて、瀬戸内海らしい風景がすごく気持ちよくて。島と島の間をみんなが船で行き来していて、学生たちも船に自転車を乗せて学校に通っている姿が新鮮だったんです。

僕も、自転車をレンタルしてしまなみ海道を30キロぐらい走って、おいしいラーメンや柑橘、のんびりした時間を楽しんだりして。そんな心地よい時間が楽しくて、気づけば尾道がお気に入りの場所になっていました」

こうして立ち上がった「しまなみブルワリー」は、現在ではふたりの働き方、生き方を象徴するような事業のひとつになった。そして、2025年現在、ふたりが10年間追い求めてきた「幸せに生きる」ということの輪郭が見えつつある。

ALTはじまり:しまなみブルワリーのヘッドブルワー、松岡さんとアイティプラスの二人が、醸造所内で並んで笑顔で話している様子。無機質な機械が並ぶ醸造所のなか、松岡さんが着用するパーカーがしまなみブルワリーのブランドカラーである爽やかなブルーカラーで、とくに際立っている。ALTおわり

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「旅と仕事と」はなぜ生まれた?
クライアントワークと自社事業の関係性

同社のモットーは、企業名の通りITにデザインやさまざまな価値を「プラス」して提供すること。特に野口は、企業の売上向上のために、ECサイトの構築から営業組織のコンサルティング、国内での新規事業開発やパートナーシップの可能性の模索まで、幅広く試行錯誤を繰り返してきた。

その結果、自分たちが何をしているのかを簡単に伝えるのが難しくなったこ

とが「旅と仕事と」をつくる動機になったという。

野口「さまざまなご縁から全国に事業やパートナーシップを拡大するなかで『自分たちは何屋さんなのか』が初めて会う人に伝わらなくなってきたんです。

『デザインとコンサルティングをやっています』と言えば簡単なのですが、それだと僕たちが本質的に大切にしていることが伝わらないのでは、と」

溝口「そこで僕たちのことをビジュアルを交えて紹介して、楽しく知ってもらうサイトをつくろうと思いました。どのようにアイティプラスが始まったか、どんな経緯から現在に至るのか、過去を振り返りながらも、同時にこれからの10年間も考えたいと思って制作したんです。

とはいえ、構想から公開まで3年近くかかっていて、その間は仕事の合間でコツコツつくっていた形になりますね。もっとも時間をかけたのは、どういう形でアウトプットすべきか、という部分です」

実は「旅と仕事と」は、プロトタイプの企画案は野口が担当したものの、その後の制作は溝口がほとんどひとりで担当している。

ALTはじまり:ブラックのジャケット、グレーのカットソーを着るアイティプラスの溝口さんが話している写真。ALTおわり

野口「今回のサイトは僕も企画から入りましたが、Studioに関連するクライアントワークの案件は、溝口が98%の工程を担当しています。お客様の問い合わせ返信から、要件定義の打ち合わせ、ワイヤー制作、デザイン・実装、公開まで、溝口だけで一気通貫で対応しているんです。

その分、僕は本当に“幸せに生きる”ために必要になると思っていることに、しっかり腰を据えて取り組んでいます。具体的には、コンサルティングの仕事を通じて出会った顧客との関係性を深めたり、自分たちがやりたいと思っている自社事業を進めたりと。主力事業のWeb制作を最少人数で完結できることで、より長期的な展開を見据えた動きにも注力できることに、Studioを使うメリットを感じています」

これまで「しまなみブルワリー」や多肉植物事業「tawawa」を筆頭に、さまざまな自社事業がアイティプラスでは試行錯誤されてきた。もともとビジネス寄りの世界からキャリアがはじまっている野口は、事業を立ち上げたり、大きくしたりすることに興味があるのだと語る。

野口「極端な話、最初から今まで『クライアントワークをやるか、自社事業をやるか』にこだわりはなかったんですね。これまではクライアントの課題解決を中心に会社を立ち上げてきましたが、ここからは自社事業を拡大していったほうが、『常に旅して動きまわりながら形にしていく』という私たちの強みをより活かすことができると思うんです。そう考えると、自社事業を育てていくのは必然の選択になりますね」

また、クライアントワークを通じて培ってきたStudioのスキルは、スピード感を持って自分たちの事業を拡大し、かかわる人々の信頼を獲得する方法としてフル活用しているという。特に興味深いのは、自分たちが動きまわりながら事業を営み、地域に入り込むための手段としての活用方法だ。

野口「僕たちはとあるブドウ農園の販売をお手伝いしているのですが、人手が足りない繁忙期に家族と一緒に手伝いに行ったり、WebサイトをStudioでつくったりしています。その際、普通にお金をいただいて制作するのではなく、『お互いに持ちつ持たれつの精神でいこうじゃないですか』と、通常よりも少ない費用でつくっています。

すると、たとえば『そこの場所を使っていいから、勝手にビニールハウスを立てていいよ』といった提案をいただくことがあります。多肉植物事業のために輸入した苗は、置き場所としてビニールハウスが必要になるのですが、そのために必要な土地などのリソースをそのブドウ農園の人が共有してくれたんです」

お互いに気軽にGiveしあえるからこそ、ビジネス上でも信頼関係や絆が生まれる。こうした活用例は、簡単にサイトをつくれて、ITに明るくない人でも運用しやすいStudioならではだ、と溝口は言葉を続ける。

溝口「野口が動きまわる中で、Webサイトが必要だとなったときに、Studioで簡単につくれてしまう。新しい出会いが生まれたり、出会いを形にできたりするのは、会社にとっても非常に大きなプラスなんです。Studioを起点に自社事業のデザインも広がっていく光景は面白いですね」

ALTはじまり:千光寺頂上展望台から見た、尾道の景色。手前に尾道市内、尾道水道を挟んだ対岸には、向島地区をはじめとする瀬戸内海の島々が一望できる。撮影日は心地よい風が吹くおだやかな海で、港には大きい船や工場が並んでいた。ALTおわり

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家族、旅、ビジネスの
心地よいバランスを探して

幸せの形を追求するふたりの大きな関心事は、仕事と家庭のバランスや、家族のあり方だ。

ともに夫婦で世界一周を経験し、時に家族揃ってブドウ園を手伝いに行くように、旅をしながらさまざまな体験をして暮らすような仕事や働き方をふたりは目指している。

野口「いまの心地よいバランスは、旅とビジネス、そして家族(子ども)の掛け算で成り立っています。特に野口家が3人、溝口家は2人同世代の子どもがいることで、見える世界が広がった感覚があります。どれだけ家族みんなで、いろんな体験をしながら暮らせるかを大事にしていて、『ブドウ農園をお手伝いに行く』といった、一見ビジネスに直接つながらない動きをしているのは、そうした理由もあります」

このバランスを支えているのは、家族との「信頼感」だと続けて語る。野口家と溝口家は、妻同士も同世代、かつ同時期に同じ場所に住んでいた」といった共通点からも仲が良く、ともに夫婦で世界一周旅行をするほど価値観が一致している。

家族同士、夫婦同士の強固な関係性があり、コミュニケーションが円滑で“背中合わせ”に協力しあえることが、現在の自由な働き方のスタイルの土台にあるのだという。

ALTはじまり:アイティプラスの野口さんが笑顔で話している様子。手前には溝口さんが写っていて、

野口「たとえば、新規事業をするからには、やはりお金と時間の投資が必要になります。言いかえれば、それは僕たちの給与や時間の一部を削って投じているわけです。家族が納得してくれるかどうかは、当然大きなポイントになります。

僕たちは、妻同士も含めた4人の信頼関係があります。その土台の上に、さらに旅を経験したからこそ、幸せのビジョンも合致して共有している。今さら何かが失敗したからとか、何かが嫌だからといって、良くも悪くも変な関係性にはならない。

そうした安心感が、現実的なお金や時間の使い方をきちんと話し合える関係性を生み出し、現在の僕たちの仕事や働き方を支えていますね」

ふたりの家族は、いまライフステージが変わる転機にいるという。両家族あわせて5人いる子どもが全員小学生になり、今までよりも手がかからなくなる。夫婦4人の手が空き、仕事に使える時間が増えていくなかで、次の道に進むいいタイミングが訪れている。

しまなみブルワリーも事業拡大を考える時期にあるというが、あくまで考える上でのポイントは「自分たちが幸せにビールをつくり続ける規模はどこまでなのか」にあるのではないかと溝口は語る。

溝口「これはクライアントワークでも同じで、人を雇って育てて案件を拡大して、デザイン事務所として大きくすることはできる。

ただ、アイティプラスはデザイン事務所ではないので、うちでそれをやるのは違う。さらにそうなるとオフィスにいないといけない時間も増えますし、自分の自由時間、子どもと接する時間も減っていきます。だからこそ、売上や事業拡大よりも、自由な働き方ができる範囲で、自分たちが納得できる仕事をしていくことが大事だと思うんです」

 ALTはじまり:尾道水道を背に、野口さんと溝口さんが港にあるベンチに座って話している。野口さんは、対岸を指差して何かを説明している様子。ALTおわり

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さらなる「幸せに生きる」旅に向けて

Studioを活かしてクライアントワークと自社事業を並行して成長させ、「幸せに生きる。ってなんだろう。」という問いを追求してきたアイティプラス。Studio Design Award 2024のグランプリ受賞を経て、ふたりはどのような未来を描いているのだろうか。

ひとつはブランド立ち上げへの挑戦だ。ロゴデザインからはじまって、ビジネス設計、Webサイト制作に至るまで、すべてのブランディングに携わりながら事業を回したいという目標。そして、しまなみブルワリーやtawawaに続いて、「自分たちらしい」と感じる、海外にグローバル展開できるような自社プロダクトの開発も野口は挙げる。

ALTはじまり:溝口さんが右を向いている横顔の写真。黒いダウンジャケットを着て、展望台の柵に腕を乗せながら尾道の街並みを眺めている。ALTおわり

最後に溝口は、グランプリ受賞の賞金を使って、こんな企画を実現すると宣言した。

溝口「いただいた賞金の使い道をずっと悩んでいたのですが、『旅と仕事と』にも書いた『創造力は移動距離に比例するらしい』という言葉から、旅にお金を使うことにしました。

僕は建築物を見るのが好きなのですが、実は世界一周から帰国してから野口ほど旅をしていなくて。これを機会に創造性を上げていきたいと思って、毎月1回、日本の素敵な建築を巡る旅を10ヶ月間にわたって実施することにしました。

この旅ではただ観光するだけでなく、SNSなどで知り合ったStudioユーザーの方たちと交流して、横のコミュニティをつくっていけたらなと思っています。10回分の旅の内容はブログのようなサイトを制作して、僕が体験したことを随時アップデートして掲載していければと思っています」

▲取材後にスタートした本企画は「旅と仕事と|日本の建築を巡る旅」サイトで公開中

たまたまのメキシコでの出会いを機に、起業し、ビジネスを軌道に乗せて、家族とのライフステージも変わっていく。その10年間の過程には、Studioとの出会いがあり、今回のグランプリ受賞、これからの事業展開や新たな出会いにも繋がっていく。

「幸せに生きる。ってなんだろう。」

旅を続けながら仕事をし、家族を大切にし、好きな場所で自由に生きる——そんな10年間の想いが重なり合ったからこそ、「旅と仕事と」は訪れる人に強い印象を残すサイトとして完成したのだろう。

そしてこの問いかけは、これからも彼らの旅を進ませる原動力として、私たちに新しい生き方の可能性を見せ続けてくれるに違いない。

ALTはじまり:アイティプラスの二人の背中が写っていて、尾道水道にある桟橋を並んで歩いている様子。ALTおわり

IT+

野口 和央 (Noguchi Kazuhiro)
学生時代に汎用機でのプログラミングやFAコンピューター製造、Linux研修講師などIT業界にて幅広い経験を積み、卒業直前には米国・シアトルにてデーターセンタービジネスの立ち上げに携わる。2005年から約7年間、日本ヒューレット・パッカード株式会社にてマーケティング、営業部門のマネージャーとして勤務。日本一周・世界一周を経験し、2014年、株式会社アイティプラスを設立。

溝口 耕太 (Mizoguchi Kohta)
2008年、多摩美術大学 グラフィックデザイン学科卒業。2008年〜2012年、デザイン事務所にてグラフィックデザイナーとして勤務。2012年から世界のデザイン&アートを見るために世界一周を経験。2013年に帰国後、同年4月からフリーのデザイナーとして活動し、2014年、株式会社アイティプラスに入社。

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