Interview
NEWTOWN 犬飼 崇 × 大塚 誠也
Creative Direction by Maehara Takahiro,
Interview & Writing by Ishida Tetsuhiro,
Content Editing by Hayashida Mika,
Photography by Tano Eichi
2025.08.29
〈 デザイナー対談 〉効率化の時代に「師弟」関係がもたらす意義と価値
Creative Direction by Maehara Takahiro,
Interview & Writing by Nakahama Masami,
Content Editing by Hayashida Mika,
Photography by Tano Eichi
2025.08.29

Profile

犬飼 崇
NEWTOWN 代表

大塚 誠也
Freelance Designer
3年前、新卒フリーランスとしてキャリアをスタートさせた大塚誠也は、暗闇の中にいた。
気づけばもう27歳目前、何も得られないままここまで来てしまった。デザインスキルが足りない。十分な収入の見通しも立たない。そもそも、自分はデザイナーと名乗っていいのか?このままで大丈夫なのだろうか──。
そんな彼が見つけた一筋の光。それは、Studio Showcaseで存在感を放っていたデザイナー、NEWTOWN代表の犬飼崇だった。恐るおそる送った「弟子にしてください」という一通のメッセージが、彼の運命を変える。
そして、2025年。大塚氏は自身が制作したサイトでStudio Design Awardにノミネートされるまでに成長を遂げた。彼が手に入れたのは、小手先の技術ではない。師匠から教わった、デザインの「基準値」だった。
制作という行為のハードルが下がる時代における、人から「教わること」の意義と価値。そしてクリエイティブを継承するために必要な姿勢について、師匠と弟子が対談した。

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「弟子入り」からはじまる関係性
──まず、お二人の出会いから教えてください。
大塚:僕が、犬飼さんの「弟子募集」に応募したことがきっかけでした。
僕がStudio Showcaseのサイトを見ながら『このサイトいいな』と思ったものをまとめていたら、見事にすべて犬飼さんが制作したサイトだったんです。
それで犬飼さんのSNSをフォローしたところ「弟子募集」とプロフィールに書かれてるのを見つけたんですが、募集要項もフォームも一切なくて。
無償で教えてもらえるなんて、そんなにうまい話があるわけないよな……と思いながら「すみません、本当に弟子募集してますか?」と恐るおそる連絡したのがはじまりでした。
犬飼:たしか、Studio Design Award 2021で受賞する直前くらいに連絡をくれたんだよね。
大塚:そうなんです。応募したあとしばらく経ってから「Studio Design Award」というイベントにNEWTOWNが作った3つのサイトがノミネートされていることに気づいて。授賞式をオンラインで観ていたらグランプリ含む5部門で受賞していて「うわ、すごい人に連絡してしまった」と思ったんですよね(笑)。
犬飼:そういえば大塚くんがポロッと「受賞前に連絡してよかった……」と言っていた記憶がありますね。
──犬飼さんから見て、大塚さんの第一印象はいかがでしたか?
犬飼:どうでしたかね……。
じつは、弟子制度は「第1期」「第2期」と、何人かまとめて募集していまして、大塚くんは第2期生として来てくれました。特にアワード受賞後には申し込みがたくさん来て、その期は大塚くんの他にも3人弟子を採用したんですよ。
その中でも大塚くんはとにかく絵が描ける、絵心があることが印象的でした。
ただ、興味があることはすごく集中して熱心にできるけど、興味がないことはおざなりにするタイプ。それでも絵がうまいから「うちに来てみなよ」と受け入れた記憶がありますね。
大塚:僕は当時、マージンの数値など細部が適当だったんです。ひどいくらいバラバラで。
いま考えたらとんでもないのですが「マージンは揃えるんだよ」と、それくらい基礎から教えてもらってました。それでもいつも出来ていなくて、何度も指導されました。
犬飼:僕ももともと規則正しくきっちりやるのが苦手なんです。
だからこそ大塚くんの気持ちはわかるし、そこが良くなれば全体的に良くなるのが見えていたからね。

──弟子期間はオフィスで一緒に作業するようなイメージでしょうか?
大塚:いえ、基本はフルリモートでした。コミュニケーションはSlackで取って、2週間に1回オンラインセッションを設けていただいて。
というのも「弟子入りさせてください!」と連絡した直後に、僕が日本一周の旅に出てしまいまして。
犬飼:「スーパーカブ」で旅に出たんですよ(笑)。
大塚:本当におこがましいですよね。
けど、もともと旅をすることは決まっていたので、失礼を承知で事情を伝えたところ「じゃあオンラインでやろう」と言っていただいて。毎回「今どこにいるの?」みたいな感じで会話が始まっていました。
犬飼:弟子制度は実際の仕事を渡すのではなく、僕が出した課題を弟子たちに各自進めてもらう方式だからです。そうした状況でも、大塚くんの実力はしっかり伸びてくれたと感じます。

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デザインを“お絵描き”から脱却させた
師匠の教え
──具体的にはどんな課題を出されたのでしょう?
大塚:最初の課題は「自分でWebサイトをゼロから1つ完成させる」でした。
犬飼さんには制作に伴走してもらって都度フィードバックをいただくのですが、そこで知ったのは犬飼さんが企画段階からワイヤーフレームをどれだけしっかり練っているのか、ということです。
僕はいつもテキストをポンっと適当に置いて「画像はこのへんで」くらいで考えていたのですが、犬飼さんは最初から情報設計をほとんど完璧に整えていて。
「こんなに整えてから制作をはじめるのか」と目から鱗でしたし、実際に制作しながらやり方を教えてもらいました。
犬飼:僕は情報設計こそデザインの第一歩だと考えています。一般的にはディレクターがワイヤーフレームを作るケースがほとんどですが、弟子たちには必ずワイヤーフレームから着手するように伝えています。
大塚:強い言葉で言われたわけではないですが「ワイヤーフレームをなめるな」というメッセージとして受け取っていました。それぐらい情報設計の重要性については口酸っぱく言われました。
僕は、弟子になるまで「デザイナー」と呼ばれる人々はみんな美大出身で絵を描いていて、その延長でデザインを仕事にしていると思っていたんです。
だけど、犬飼さんは「美大では絵を全然描いてなかった」と話していて。それでもあんなにいいサイトがたくさん作れることが衝撃でした。
それまで僕のデザインはお絵描きの延長みたいなもので、スタイリングばかりにこだわっていました。犬飼さんの課題を通して情報設計の大切さを知り、ようやく「デザインとはこういうことを指すのか」と理解できた気がします。

──弟子はどれくらいの期間続いたんでしょうか?
犬飼:弟子期間は1年間と決めていて、それを過ぎたら強制的に卒業させていく仕組みになっています。
ただその後も連絡を取り合っていて、仕事で声をかけたり、次の第3期の弟子を見るのを少しだけ手伝ってもらったりすることもありましたね。
大塚:卒業後にどうしても犬飼さんの意見がほしい場面が何回かあって、その際は僅かながらフィーをお支払いしてフィードバックをもらうことがありました。
たとえば、病院のサイトリニューアル全体を任される大規模案件の相談をいただいたことがあったのですが、僕一人で引き受けるには判断が難しく「内容や期間などの制作要件が適切かどうか」について相談したことがありまして。そのときにいただいたのが「慎重に考えたほうがいい」という率直なアドバイスでした。
代案として犬飼さんが提案してくれたのが「一番伝えたい部分だけを切り取ってサイトを作る」というアイデアでした。
それがStudio Design Award 2024でノミネートされた「誰でもなり得る疾患ガイド」です。
犬飼:あのサイトを見たとき、大塚くんのデザインが「ガラッと変わったな」と感じましたね。かなりきっちりマージンを整えていた。細部にまで気がいくようになったんだなと思いました。
大塚:僕は「犬飼さんメモ」というノートを持っていて、マージンの揃え方から文字のバランス、思考プロセスまで、いままでフィードバックいただいたことを大量に書き記してます。
それを一つずつ見返して「今回はこれに気を付けよう」とやっていたのが成長に繋がったんだと思います。
犬飼:あとは目が肥えて「基準値」がわかるようになったんだなと感じました。
ひとりでやっていたら絶対に気づかないことが、指摘されることで気付けるようになる。そうして基礎的な能力が積み上がっていくと、ある時一気にぐいっとレベルアップする瞬間が訪れる。
「誰でもなり得る疾患ガイド」のサイト制作では、それまで頑張ってきたものが結果に表れたのだと思いました。

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「師匠」をなぜ引き受けるのか?
──そもそも、犬飼さんが弟子募集をはじめたのはなぜだったのでしょう?
犬飼:最初のきっかけはコロナ禍で仕事が一気に減ったことでした。
独立して間もない時期である程度暇が生まれたこともあり「今やれることってなんだろう」と考えたときに、スタッフを探すリクルーティングも兼ねて学生に教えてみようかと思ったんですね。
というのも、学生もコロナ禍ですごく暇で鬱屈していてかわいそうだと思っていたし、教えるのは彼らのためにもなる。その先にいい人が現れたらNEWTOWNのメンバーとして誘ってみるのもありかなと考えて、弟子制度を始めました。
──最初は学生を対象にスタートしたんですね。実際にやってみて、犬飼さんも学びがあったんでしょうか?
犬飼:僕は教えることは最大の勉強だなとは思っていて。人に教えることで自分の頭の中の知識が整理されていきますし「こうするとこう返ってくるのか」「こう言っても伝わらないのか」「こういう風に言えば理解してくれるのか」と、僕にとっても教えるスキルを向上させる練習をさせてもらっていたわけです。
でも正直、ちょっと嫌な気持ちになることもあるんですよ。
自分が時間を割いて教えていても、急にいなくなる学生の子がいたり「それはないだろう」という対応をされたり。「なんでこんな思いをしてまで続けてるんだろう」と、ずっと考えてはいました。
その問いに対するヒントを、最近読んだ『思いがけず利他』という本の中で見つけました。
利他とは「何かをしてあげよう」と意図してするものではなく、自分の意思を超えて「思いがけず」起きてしまう現象だと書かれていて。「受け取りたい子たちに、何か教えてあげたい」という気持ちからの行動は、別に理屈抜きでもいいんだなと思って。
いまようやく、弟子を取る理由は特に考えなくてもいいか、と思えるようになりました。
── 一方で大塚さんは、もともと新卒でフリーランスというキャリアだったと思います。「師匠に教えてもらう」という経験は、やはり大きかったと思いますか?
大塚:もうでかすぎて、本当にもう、これに関しては一生感謝してます。
犬飼:(NEWTOWNに)仕事がなくなったらお願いしますよ〜。

大塚:なくなるわけないですよ(笑)。犬飼さんに弟子入りしていなかったら、いま何をやってるのかすら予想がつきません。
新卒フリーランスという肩書が珍しがられたとしても、いずれはスキルがないだけの人になっていくというか。会社でしっかり下積みを経験した人たちも、気付けば独立していきますからね。
だから、僕は弟子になれたとき「この機会を逃したら死ぬ」と思っていました。
新卒でフリーランスになったのはゲストハウスを作るためでしたが、当時は収入の目処も立たず、スキルもない。なにも得られないまま27歳を迎えて「どうしよう、やばい」と思ってたんです。
絶対に、ここでなんとかしなきゃいけない。それぐらいの危機感や切迫感を持っていました。

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これからの時代に
人から学ぶことの意義と価値とは
──弟子入りする前の大塚さんは、かなり追い詰められていたんですね。
大塚:なにより、当時は自信を持って「デザイナーです」と名乗れなかったんですよ。
ロゴなどを作ってはいたのですが「自分がデザイナーを名乗っていいのだろうか」って。デザインスキルが全然足りないのはわかるけど、どうしたらいいかわからない状況だったので。
犬飼:かといって「どこかに所属して学び直そう」と思ってもどこに行けばいいかわからないし、そもそも「入りたい」と思っても入れないケースも多いからね。
大塚:そうなんですよ。そして、自分と同じように「どうしたらいいんだろう」と苦しんでいる人は、特に僕たち世代にたくさんいると感じます。
ちょっと前までは大企業、特にクリエイティブでは大きい広告代理店に影響力があって、そこで師弟関係が生まれて技能が継承されていましたよね。
ただ、いまはSNSが出てきてから、みんなが会社から独立して、各々が分散して活動できるようになったじゃないですか。
そうなると、大きな勤め先が長期的な成長を見据えて、若手を受け入れて育ててくれづらくなる。
一方で、犬飼さん的なポジションの人は個人事務所を構えるけれども、そこで雇える人数は個人事務所だからキャパシティが限られてくる。
つまり大きな潮流でいうと「教わる」という行為や「教わる場」が途絶えそうになっているんだと思うんです。
そういう意味でも、犬飼さんの「弟子」をとる取り組みは本当にありがたいです。
──たしかに「デザイン事務所に10年勤務して独立」など、かつて存在していた一般的なキャリアパスのレールを耳にすることが少なくなりましたよね。
犬飼:いまはSNS上で仕事が得られる時代だからこそ、新しい生き方やデザイナーのキャリアパスのあり方を模索できる良さはあると思います。
ただ、デザインの基礎能力は身につけるのに本来3〜4年はかかるものなので、どうしても下積み期間をしっかり経ないと能力不足に陥ってしまう。
それでも完全に独学で何も知らずに仕事をするよりは、誰かが師匠になって最低限のベースラインを提示してもらう機会があったほうがいい。それがあったかどうかでは、かなり大きな違いがあると思うので。
だって不安だったんじゃない?

大塚:不安でした。自分の感覚や判断が合っているかわからないですし。
ご依頼していただいた案件のなかには実力不足を感じたものもあったので。
犬飼:そう感じているフリーランスはきっと多いよね。どこかに所属したことがないから「基準値」がなくて、自分が正しいかがわからない。
短い期間でも「こういうのがひとつ例としてあるよ」と提示してあげるだけで、指針や道しるべになったりする。
ただ最近は、いきなり「答え」を求めてくる人が多い印象もあります。
でも、僕が教えたいのは、その答えに至るまでの“思考のプロセス”なんですよね。そこをすっ飛ばして「正解だけ教えてほしい」という姿勢だと、結局応用も効かないし、自分の中に血肉として残らない。
だからこそ、プロセスも含めて一緒に考えていくことが、すごく大切だと思っています。
そういう意味では、自分が尊敬する師匠や先輩の「所作」を隣で観察して盗むことも大切ですよね。
リモートだと難しいことも多いのですが、使っている道具、仕事の進め方、クライアントとの会話などから、師匠の美意識や美学を五感で学んでいく。特にデザインはいろんなセンスの塊ですからね。
僕自身も師匠の影響をかなり受けています。
たとえば僕には、蕎麦用のお猪口でコーヒーやお茶を飲む習慣があるのですが、これは僕の師匠を真似して身につけたものです。
同様に、僕が使っている器や机、椅子などもすべて僕の美学、「こういうものがいい」と思って選んでるものだから、それを弟子たちにはぜひ感じてほしいなと思っています。

──ありがとうございます。デザイン業界の次世代育成にも繋がる、大変良い話だったと思います。
大塚:個人的には「我こそは」という実績あるデザイナーさんが、どんどん弟子をとってくれたら嬉しいなと勝手ながら思います。先ほどもお話した通り、僕の同世代には「どうしたらいいんだろう」となっている人がたくさんいると思うので。
あのとき犬飼さんの弟子になれたことで、僕の人生は大きく変わりました。
同時に誰かに手を差し伸べること、バトンを渡して受け継いでいくことの大切さも学んだと思います。
犬飼:僕もこの年になってようやく、師匠や先輩たちが「教えてくれた」ということが、ありありと分かるようになりました。
だからここで止めちゃダメだし、次に渡していかないといけない。
そして、渡していく相手は、ひとりでも多い方がいいと思うんですよね。だから僕は、これからも無理のない範囲で師匠を続けていくつもりです。
そして、いま行き詰まりを感じて「師匠」を求めている若手には「どうすればいいですか?」と安易に答えを求めるのではなく、そこに行きつくまでの過程や思考プロセスを含めて、貪欲に吸収する姿勢で臨んでくれたらいいなと思います。

情報もノウハウも、検索すればすぐに手に入る時代。それでもなお、人が前に進むとき、背中を押してくれるのは「人の言葉」なのだと、今回の対談を通じて改めて感じた。
師匠・犬飼氏のまなざし、弟子・大塚氏の真摯なまなざし。その往復の中にあったのは、血の通った時間と、感情の機微が宿る学びのかたちだった。

baigie inc.
犬飼 崇(Inukai Takashi)
1981年新潟生まれ。2006年多摩美術大学情報デザイン学科卒業。 数社のデザイン事務所でグラフィック、エディトリアル、Webのデザインに従事し2019年に独立。 現在はNEWTOWNの代表を務める。
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大塚誠也(Otsuka Seiya)
神奈川県川崎市出身。2019年より「Soft. Guest house」の屋号でフリーランスとして活動し、ファシリテーター、企画、デザインを手がける。近年は、場づくりに関するグラフィックデザインやWebデザイン、企画を中心に展開。武蔵新城で、住み開きシェアハウス&創造拠点「TACOHAUS」を運営している。
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