Interview
FunTech inc.
2026.06.03
「作家性」で挑む、次の10年。FunTech太田義孝が語る及第点を数段飛び越えるクリエイティブ
2026.4.10

Profile

太田 義孝
CEO, クリエイティブディレクター
生成AIをはじめとしたテクノロジーの進化によって、誰もが一定水準のWebサイトを作れる時代が近づきつつある。その水準は、今後も加速度的に押し上げられていくだろう。
そのときに重要なのは、常に平均を数段飛び越えたクオリティのサイトを作れるかどうか。そして、自分たちならではの価値は『作家性』にこそある」。そう語るのは、FunTech代表の太田義孝だ。
戦略性のあるブランディングと3DやWebGLを用いたアニメーション演出を武器に、独自性の強い表現で業界内外から高い評価を集めてきたFunTech。「Studio Design Award 2025」では「Experts of the Year」と「アウトカム賞」(東急株式会社 新卒採用サイト)のダブル受賞を果たしている。
2026年5月、FunTechは創業10周年の節目に合わせて、自社のリブランディングを実施した。これまでの歩みを土台に、次の10年に向けたFunTechのあり方を、改めて社内外へ打ち出す試みである。その根底にあるのが、冒頭で太田が口にした「作家性」という言葉だ。
ただし、ここで言う「作家性」はクリエイターの美意識やセンスだけを意味するわけではない。面白い仕事をどう引き寄せるか。「楽しみ続ける」組織をどうつくるか。業界の変化にどう追随するか──。FunTechの10年は、自分たちの「作家性」を存分に発揮できるフィールドを、自分たちの手で少しずつ耕してきた歩みともいえる。
同社が現在に至るまで重ねてきた試行錯誤と転機、次の10年に向けた覚悟を太田に訊いた。

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「作家性」を発揮する
“いい尖り方”を選ぶ
FunTechは「作家性」を発揮できるフィールドをどう耕してきたか。その話に入る前に、まずは「作家性」そのものの輪郭をつかんでおきたい。
太田がその手がかりとして挙げるのが、ベンチャーキャピタル「ANRI」のコーポレートサイトだ。NEWPEACE代表の高木新平氏、CIデザイナーのタカヤ・オオタ氏らと協働した同案件で、FunTechはWebサイトの全体構成や制作、3Dロゴのモーション設計などを担った。
トップページで立体的に動くロゴに加え、配色やレイアウトも含め、競合のそれとはまったく異なる印象を放つANRIのコーポレートサイト。その異質さとクオリティの高さから、公開と同時に大きな反響を呼び、世界的なWebデザインアワード「Awwwards」のHonorable Mention(佳作)も獲得した。
太田にとって印象的だったのは、プロジェクト終了後、タカヤ・オオタ氏からかけられた「FunTechにはやっぱり作家性がある」という言葉だった。太田はこれをきっかけに、自社の強みの本質を「技術」から「作家性」へと捉え直すようになったという。
「自分たちのなかで明確に言葉にしてこなかったものに、初めて名前がついた感覚でした。それまでは『フルスクラッチでの表現力』や『Webから映像、3Dまで幅広く扱える対応力』など、技術側の言葉で自社の強みを語ることが多かったんです。けれども、タカヤさんが見ていたのは、それらの技術を束ねて一つのアウトプットに収斂させたときに残る、FunTechらしさみたいなものだったのかと」

こうした「作家性」は、AI時代における最大の強みにもなりうると、太田は言葉を続ける。ツールが進化すればするほど、Webサイト制作においても、業界全体でクオリティの底上げが進んでいく。だからこそ、誰にも模倣できない、属人的ともとれる「作家性」にこそ、競争優位性が生まれるはず──ANRIのプロジェクトを経て、太田はそう確信を深めるようになった。
もっとも、太田が考えるFunTechの「作家性」は、ひとりのクリエイターの美意識やスタイル、表現力といった一般に思い浮かべる「作家性」だけを指すのではない。太田の話を聞いていくと、それはいくつかの力が組み合わさったものだと見えてくる。
まず根底にあるのは、見たことのない表現を立ち上げる「クラフト力」だ。Web・映像・3Dを横断して技術を束ね、平均を数段飛び越えたアウトプットを生み出す。FunTechがこれまで業界内外の評価を集めてきた、最も目に見えやすい力であり、一般に「作家性」と聞いて思い浮かべるものにも近い。
そのうえで、太田が言う「作家性」には「なぜこの表現にすべきか」を戦略として根拠づける力も伴っているという。太田はその実態を、「いい尖り方」という言葉で説明する。
「『いい尖り方』の前提には、戦略性が必要だと考えています。競合と並んだときにどのポジションを取るか、どんな人材や顧客を惹きつけたいか──そうした戦略性があって初めて、本質的な成果につながる『誰も見たことのない』クリエイティブが生まれる。
逆に戦略の文脈を欠いたまま表現だけが尖っている仕事を、僕たちはあまり好みません。表現がぶっ飛んでいるのに、ちゃんと戦略もある。それが『いい尖り方』であり、自分たちが常に目指している『作家性』です」

そしてもう一つ欠かせないのは、その「尖り」をクライアントと合意して実現する力だ。どれだけ戦略的に筋が通り、表現として優れていても、クライアントが首を縦に振らなければ仕事は世に出ない。だからこそ最も力を注ぐのは、提案そのものの組み立て方だという。
「何より大事なのがヒアリングです。たとえば採用サイトの依頼なら、目先の採用課題だけでなく、その奥にある経営戦略にまで、できる限り踏み込んで話を聞く。そのうえで、デザインの具体的な案を提示する手前で、枚数に制限を設けずスライドへ落とし込む。考え抜いた量をしっかり伝えることが、納得度の醸成につながると考えているんです」
実際に提案をしてみると、クライアントが『こんなに振り切って大丈夫か』と臆することも少なくないという。それでも引くことなく、振り切るべき理由を、戦略と熱量のバランスを保ちながら伝えきる──こうしたプロセスを経て、太田たちは一つずつ「作家性」を発揮する場所をつかみ続けている。
見たことのない表現を生むクラフト、それを戦略として根拠づける視点、そしてクライアントとの合意を実現する突破力。これらを兼ね備えることが、FunTechがデザイン会社として持つ、無二の強みと言えるだろう。

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振り切った自社サイトが、
チャンスを引き寄せる
FunTechがこうした「作家性」にたどり着くまでには、どのような歩みがあったのだろうか。今日のFunTechを形づくった契機を振り返っていく。
太田が学生団体の仲間とFunTechを法人化したのは、2016年5月のこと。創業からしばらくは、受託したLPや短尺動画の制作をひたすらこなし、売上を立てる日々が続いたという。
創業から2年が経過した頃、太田の中には拭えない違和感が積もっていた。自分たちが本当にやるべき仕事は、量産的な制作の積み重ねなのだろうか──そんな問いが、頭から離れなくなっていったと振り返る。
「『これじゃない』という感覚があったんです。毎日のように制作を続けるなかで、少しずつ自分たちのデザイン力にも自信がつき始めていた。だからこそ、その力を活かして、もっと大きな勝負ができるんじゃないか、と。
コーポレートサイトの制作、ブランディング、採用戦略の設計──そうやって、引き受けられる範囲を広げていきたいと考えました。そのために、特にものにしておきたいと思ったのが、3Dグラフィックスの制作力だったんです」

当時、3Dまで内製できる会社は多くなかった。「いわば穴場だと思った」と太田は振り返る。Blender等の制作ソフトも普及期に入り、3D表現のハードルが下がりつつあった時期。FunTechは早い段階でその波に乗り、3Dを自社で制作できる体制づくりを進めていく。
その動きを一気に加速させたのが、オランダ出身の3Dモーションデザイナー、テレンス・ド・フリースの存在だった。自転車ブランドVanmoofのプロモーション動画や、Netflix関連のコンテンツ向け映像を手掛けるなど、確かな実績を持つクリエイターである。
太田はテレンスと共通の知人を介して知り合い、太田が29歳でオランダに留学していた時期には、週に何度も会って語り合う友人同士になっていた。テレンスが「日本で働いてみたい」という想いを持っていることを知った太田は、「彼ほどの実力者と一緒に働けるなら、これ以上のチャンスはない」と感じ、声をかけたという。
当時のFunTechにとっては背伸びと言える待遇で、テレンスを迎え入れる。今では同社の代名詞となった3Dをはじめとする映像表現は、これを機に大きく磨かれていった。
こうして異国の地からメンバーを迎えるなかで、FunTechは働く場所や国籍を問わない組織のかたちも、自然と獲得していった。ドイツへの移住を望むインターン生が現れた際には、駐在所を新たに設けて受け入れている。「場所の制約で優秀な人やいいクリエイティブを逃すのは、本末転倒ですから」と太田は言う。
優秀な才能が、どこにいても力を発揮できる──そんな環境そのものが、FunTechが「作家性」を磨くための土壌になっていった。

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「楽しめるバッターボックス」を回す
FunTechの作家性のうち、表現力を最も濃密な形で投入したのが、フルスクラッチで作り込んだ自社サイトである。クライアントワークでは避けづらい様々な制約から離れ、「自分たちが本当に作りたいもの」だけに振り切ったと太田は語る。
「『FunTechに頼めば攻めたサイトが作れる』という認知が、自社サイトの公開をきっかけに、徐々に広がっていったんです。その結果、それまでにはなかった“尖った表現”を求める依頼が、少しずつ集まるようになりました。先ほど触れたANRIの仕事が舞い込んだことにも、少なからず影響しています」
攻めた表現の自社サイトも含め、FunTechはときに、合理性にとらわれない選択を大切にしてきた。その背景にあるのは“All for Fun”──「すべては楽しむために」という創業時から掲げる経営哲学だ。
会社のあり方を象徴するこの言葉に込めた想いを、太田は次のように語る。
「クリエイターとしても経営者としても、とにかく『楽しむこと』を最優先してきました。もちろん、お金を稼ぐことは僕にとっても原動力であり、否定しているわけではありません。そのうえで、もしお金を稼ぐことを一番の目的にしていたら、僕はこの仕事を、FunTechの経営を、10年も続けられなかったと思います。
本当にお金を最大化したいなら、どこかでバイアウトする道もあった。それを選ばなかったのは、『みんなと楽しく仕事をして、楽しく過ごしたい』という価値観を、経営の判断軸そのものに据えてきたからなんです」

このミッションを体現するために、太田は自身を含めた経営陣の役割を「面白いバッターボックスを用意し続けること」と定義している。ここで言う「バッターボックス」とは、メンバーが自身の持ち味や技術を思う存分発揮できる打席──すなわち、「夢中になれる仕事そのもの」を指しているという。
「クリエイターが“楽しく”仕事を続けるために最も重要なのは、“面白い仕事”が降ってくるかどうかだと僕は思っています。だからこそ、その仕事を経営陣は絶えずメンバーに届けないといけない。必ず『面白いバッターボックス』を用意するから、いつでも全力を出せるように、万全の準備をしておいてほしい──メンバーには、いつもそう伝えています」
「面白いバッターボックス」を絶えず確保するために、太田はこれまで、いくつもの打ち手を重ねてきた。
一つは、自分たちの仕事と相場感そのものを動かしてきたことだ。創業期に量産していたLPや短尺動画から、コーポレートサイト制作、ブランディング、採用戦略の設計へ。引き受ける領域を一段ずつ上流へと移し、より単価が高く、デザインを楽しめる仕事の市場へと、FunTechの立ち位置を変えてきた。

もう一つが、売上の土台と、攻めた表現を両立させる座組みづくりである。創業以来、FunTechは長くフルスクラッチにこだわってきた。だが、Studio Design Awardで目にした、とある受賞作のクオリティから「これはやらなければまずい」と判断を切り替える。Studio実装を得意とする会社と座組みを整え、案件として回せる体制を整えた。
「Studioを使ったノーコードの案件で売上の土台を固めて、フルスクラッチでは自分たちが一番やりたい方向性の作品制作にじっくり取り組める。そういう二段構えができたんです」
こうした背景からもわかるように、太田が変わらず大切にしてきたのが、新しいツールを柔軟に取り入れる姿勢だ。
「特定のツールにこだわらない。むしろ、新しいものを躊躇なく取り入れ続ける──そうやって変化に適応していくことが、『面白い仕事』をものにし続けるための鍵だと考えています。
たとえば今であれば、Claude Codeをはじめとした生成AI関連のツールはいち早く自分たちで触ってみて、制作のプロセスにもどんどん取り入れています。Studioを使ったノーコードでの制作を引き受け始めたときもそうでしたが、結果として必ず『面白い仕事』として返ってくる。そういう確信があるんです」
稼ぐ土台と攻める場所を両立させ、新しい技術に食らいついていく。こうした打ち手の一つひとつが、メンバーが「作家性」を存分に発揮できる機会──面白いバッターボックスを、絶えず用意し続けることにつながっている。

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「スーパースタークリエイター集団」を目指して
「作家性」「楽しみ続ける」「面白いバッターボックス」──これ以外にも、FunTechならではの価値観はいくつもあると太田は語る。10周年の節目に実施されたリブランディングでは、これらがあらためて、社内外へ大きく打ち出された。
リブランディングにあたり、これまでも掲げてきた「オール・フォー・ファン」に「百万ボルトのクリエイティブ」「勝利への変革者(ブレイカー)」を加えた「3つのWay」を策定。なかでも「百万ボルト」という言葉には、均質化が進む業界のなかで、「及第点を常に数段飛び越える」という覚悟が込められているという。
そして、これら3つのWayの先には、FunTechが向かう先として当初から見据えてきた「スーパースタークリエイター集団」がある。
「『スーパースタークリエイター集団』という目標を掲げて、そうなるためには、どんなレベルのアウトプットを出していく必要があるか、どんな実績を残さなきゃいけないのか。それをみんなと話し合いながら、試行錯誤しています。これもまた、自分にとっては『楽しむ』ために欠かせないプロセスになっているんです」
理想に近づくために、太田は「自身がエースプレイヤーであり続けること」を目標に掲げる。経営やマネジメントも当然担うが、それに専念するつもりはない。
「自分がプレイヤーとして関わる案件数は、これから先、減っていくかもしれません。それでも、マネジメントだけに専念してクリエイターの立ち位置から降りることだけは、選んじゃいけない気がするんです。
それに、FunTechは僕が目指す『一流の会社』にも、まだまだ届いていません。そこにたどり着くまでは、僕自身がエースとして、組織を引っ張り続ける役割を担いたいと思っています」
経営者であると同時にエースプレイヤーでもあり続けることは、決して容易ではない。「広く深い」知識や関心を絶えず身につける必要がある。その事実を自覚した上で、難しくて大変だからこそ、それを目指す姿勢を誰よりも率先して見せていきたいと言葉にする。
「大事にしたいものが、10年ぶれずに自分のなかにあるのが大きいと思います。このチームで楽しく仕事を続けたい。面白いバッターボックスをメンバーに届け続けたい。そして、その積み重ねの先で、いつかFunTechを『スーパースタークリエイター集団』と呼ばれる組織にしたい。
そのビジョンがはっきりしている限り、エースであり続けようと努力することは、大変な作業というよりも、自分にとって素直に続けたいことなんです」
大事にしたいものがはっきりしているから、続けられる──「All for Fun」を軸に、FunTechは次の10年も唯一無二の「作家性」を描き続けていく。

baigie inc.
太田 義孝(Yoshitaka Ohta)
FunTech株式会社 CEO兼クリエイティブディレクター
大学時代にフリーランスのデザイナーとして業務経験を経て、2016年FunTech株式会社を設立。
ひとりの企業経営者でありながら、現役のクリエイティブディレクターとして企業ブランディングのストラテジープランニング、クリエイティブ設計、アートディレクションまでの広い業務を担う。
制作したWebサイトを見る
Website Creators
Creative Direction / Planning / Art Direction / Photo Direction:OHTA Yoshitaka
Design / Motion Design:HORINO Junpei
Studio Development:TANAKA Yuki
Editorial Team
Interview & Writing by Kurimura Tomohiro
Content Editing by Ishida Tetsuhiro
Photography by Tano Eichi