Studioで制作されたWebサイトを讃えるWebデザインの祭典・Studio Design Award(以下、SDA)。2020年の初開催以降、エントリー数は年々増加し、SDA2023では317サイトがエントリーしました。2025年2月に開催予定のSDA 2024に向けて、2024年12月18日に歴代グランプリ受賞者が集結する特別トークセッションを実施。和やかな雰囲気の中、SDAを知り尽くす実力派3社が当時の挑戦を振り返るとともに、SDAへの挑戦がもたらす可能性の広がりについて語ってもらいました。※当日のアーカイブ動画は「Studio Community」にて視聴いただけます。SDAへの挑戦は「デザイナーとして成長する絶好の機会」トークセッションのオープニングでは「SDAにエントリーしたきっかけ」をテーマに、各社がSDAを知った経緯や参加目的を振り返りました。2021年にグランプリを獲得し、2022年・2023年と連続でノミネートを果たしているNEWTOWNの犬飼さんは参加目的を「自身のブランディングのため」と明かし、SDAへの挑戦がデザイン業界で存在感を示す絶好の機会になっていると語ります。「独立して1〜2年目の頃、Studioを使った案件を増やしていきたいタイミングでSDAの存在を知り、露出のきっかけになればと思いエントリーしました。当時は今ほどStudioの認知度が広がっていなかったので、グランプリとまでは行かずとも、どこかの部門でノミネートはできるだろうという期待感を持って応募しましたね。グランプリを獲れたのも、競合が少ないタイミングで参加できたという点で運が良かったと思います」(犬飼さん)▲SDA 2021 グランプリ 鯛のないたい焼き屋 OYOGE(NEWTOWN 犬飼さん)そして赤松さん・細尾さんはともにこのWebサイトをきっかけにStudioの存在を知り、「ノーコードで作ったとは思えないクオリティの高さに衝撃を受けた」とのこと。犬飼さんがデザイナーたちに与えたインパクトの大きさが窺えます。2022年にSDAグランプリを受賞した赤松さんがSDAに挑戦する理由として挙げたのは「デザインの品質意識向上」。現在Web制作における実装工程ををStudioへ“全振り”しているという同社にとって、SDAは自らのデザインに対する姿勢を振り返る良い機会となっているようです。「Web制作の仕事を長く続けていると、予算や納期といった制約条件を優先せざるを得ない場面が増え、気づかないうちにクオリティ面で妥協してしまいそうになることもあります。だからこそ、自分が手がけたWebサイトを世の中に出して評価を問うことは、デザイナーとしての成長を止めないためにも重要だと思いました」(赤松さん)▲SDA 2022 グランプリ 安心安全デザイン研究室(工学院大学)(飛企画 赤松さん)SDA2022ではエントリー数が296サイトを超え、受賞のハードルも高まっていく一方、2023年にはカスタムコードをはじめとする新機能を発表。Studioで表現できるデザインの幅が、さらに広がりました。そんな中で細尾さんは「メンバーの成長のため」にSDAへの挑戦を決意したと言います。「2023年頃、本格的に案件でStudioを使い始めたタイミングで、スタッフが『こういうアワードがあるんですよ』と見つけてきてくれたのがきっかけです。正直『受賞するのは難しいかもな』と思ったのですが、若いメンバーの熱意を尊重したかったのでチャレンジすることにしました」(細尾さん)SDAへのエントリーはブランディングのみならず、チームのモチベーションや制作クオリティ向上にも好影響をもたらすと言えそうです。▲SDA 2023 グランプリ YELLOW 公式サイト(スピッカート 細尾さん)サービスやプロダクトの「世界観」を届ける、グランプリ受賞サイトのこだわり続いてのトークテーマは「受賞サイトのこだわりポイント」。SDA2021 グランプリの『OYOGE』は東京都六本木にあるたい焼き屋のブランドサイトで、犬飼さんの方から「Webサイトを制作させてください」と提案したことから生まれました。「イワシ」「アジ」「アサリ」などのユニークなたい焼きのフォルムや、可愛らしくキャッチーなロゴ・イラストといったビジュアル要素はすでに固まっていたため、その世界観をユーザーに余すことなく届けるサイト作りを意識したといいます。さらに当時のStudioは今ほど機能が充実しておらず、表現の幅に制約を感じる場面もあったそう。その中でも、ノーコード特有の型にはまった印象を与えないように、サイト内に奥行きや面白みを持たせるギミックが盛り込まれています。「例えばファーストビューでは『ちょっと待つとカタカタ動き出す』くらいの、注目を集めつつもチープにならないバランスを狙ったアニメーションをつけました。そうした工夫が功を奏してグランプリを受賞でき、今でも自分の代名詞的なサイトになっています」(犬飼さん)%3Ciframe%20src%3D%22https%3A%2F%2Fplayer.vimeo.com%2Fvideo%2F1045593710%3Fautoplay%3D1%26amp%3Bloop%3D1%26amp%3Bbackground%3D1%22%20width%3D%221920%22%20height%3D%221080%22%20frameborder%3D%220%22%20webkitallowfullscreen%3D%22%22%20mozallowfullscreen%3D%22%22%20allowfullscreen%3D%22%22%20allow%3D%22autoplay%22%3E%3C%2Fiframe%3E『安心安全デザイン研究室』のサイト制作を手がけた飛企画・赤松さんによると、このサイトは「日本のものづくりを盛り上げたい」という想いのもと、地域社会や産業界へ広く届けることを目的として制作されたそう。一方で同プロジェクトの中核をなす「力学と哲学の組み合わせ」というコンセプトは、赤松さんが何度説明を聞いてもなかなか理解できないほど複雑なもの。「イラストや動画で表現すると、要素が増えてかえって何も伝わらない恐れがある」と感じた赤松さんは、このコンセプトを誰にとっても分かりやすい表現へ落とし込むべく試行錯誤を重ねました。「例えば、ファーストビューでは『力学/哲学』『事故防ぐ 新たな視点』というキーワード以外の情報を極限までそぎ落とし、入口を分かりやすく設計しています。研究内容もアカデミックでとっつきにくい印象を与えないよう、あえてポップな色使いや装飾を取り入れる工夫をしました。結果的に、全体の構成は固めながらも、サイト全体に『敷居の高さ』を感じさせないバランスが実現できたのと思います」(赤松さん)Webサイトの設計段階では何度もクライアントと対話を重ね、コンセプトを噛み砕き、中学生がわかるレベルにまで落とし込むまでに多くの時間をかけた赤松さん。「どんな表現が良いのか突き詰めて考えることができたのは、スピーディーに実装できるStudioがあったからこそ」と当時を振り返りました。▲新しさや柔らかさも感じさせるバランスの取れたデザインが特徴就労支援やインクルーシブアートに取り組む障害福祉施設『YELLOW』のWebサイトを手がけた細尾さんは「障害は障害ではなく個性であり、環境次第で大きな能力を引き出せる」というオーナーの想いを形にすべく、優しくも個性的な世界観づくりに注力しました。その中で出てきたのが、利用者が描いた作品たちを人型にくりぬき、素材として配置するアイデア。さらにカスタムコード機能が公開されたタイミングを活かし、CSSを用いてまるで一人ひとりが自由に動いているようなアニメーションを実装しました。「各ページ上部の見出しでは、通常のテキストと手書き文字を混在させ、柔らかい印象を演出。こうしたポイントを押さえることで、他の福祉施設とは一味違う、優しい中にもアートを感じるデザインを実現しています」(細尾さん)▲利用者の作品をくりぬいた「人」のモチーフが、サイトの随所に使われているグランプリ受賞後、人的ネットワークの幅が一気に広がったグランプリ獲得の前後で、社内に変化はあったのでしょうか。細尾さんは、グランプリ受賞をきっかけに人的ネットワークや案件の引き合いの幅が広がったことに触れました。「個人的にも会社としても露出やお声がけが大きく増えました。例えば、こうしたStudioが主催するイベントへ呼んでいただいたり、赤松さんや犬飼さんなど他のクリエイターとの交流が増えたりなど、仕事の幅が広がったのを実感しています。また受賞をきっかけに案件の引き合いも増えて、非常にありがたい限りです」(細尾さん)赤松さんは「受賞後に案件が爆発的に増えたわけではない」としつつも、「受賞をきっかけに取材やイベント出演が増え、業界内でのプレゼンスが高まり、社外とのネットワークが広がった」という点を強調しました。「印象的だったのが、受賞をきっかけにStudioのメンバーの方が広島の事務所まで取材で訪問してくれたこと。そして、それに合わせて、ひろしまクリエイターズギルドさん(広島のクリエイター支援をするコミュニティー)が急遽オフラインでの共同イベントを開催してくれたんです。露出が増えたのもありがたいですが、色々な人と仲良くなれたことがなによりも嬉しかったですね」(赤松さん)また、赤松さんは「グランプリの発表直後に『WIRED』からの取材を受けた」ことを挙げ、「昔から愛読してきた雑誌だったので、本当に嬉しかったし、受賞しなければなかった機会だと思う」と振り返りました。もともと「NEWTOWNをより多くの方に知ってもらうためにSDAへエントリーした」と話す犬飼さんはその狙い通り、「グランプリ受賞者」という肩書きがNEWTOWNの認知向上につながったと話します。「例えば社内外のメンバーに『NEWTOWNって大丈夫なの?』と問われたときにも、『いえ、グランプリ取ってますから』という一言が説得力として効くんですよね。いわゆる免罪符ではないですが(笑)、信頼してもらうための良い肩書きになりました」(犬飼さん)3名とも口をそろえて言及していたのが、「受賞後に人的ネットワークの幅が一気に広がる」という点。受賞をきっかけにSNSやリアルイベントなど、さまざまな場で生まれるクリエイター同士の交流が、デザイナーとしてよい刺激になるようです。グランプリ受賞者が注目する、SDAノミネートサイト最後に、過去4回のSDAノミネートサイトの中から、グランプリ受賞者の3名が印象に残っているWebサイトを伺いました。犬飼さん注目のノミネートサイト▲SDA 2023 優秀賞 株式会社Eat, Play, Sleep「私が印象に残っているのは、2023年の優秀賞に選ばれた『株式会社Eat,Play,Sleep』のコーポレートサイトです。派手なアニメーションや凝った仕掛けに頼らず、余白やレイアウト、タイポグラフィのバランスなどが細部まで整えられていて、シンプルでありながら完成度が高い。Studioで作られたお手本のようなサイトだと思います」(犬飼さん)赤松さん注目のノミネートサイト▲SDA 2022 PARTY賞 DENSHOW 佐賀・絶景伝承芸能「2022年のSDAで見たとき、『グランプリを取るのはこれだ!』と本気で思ったのが『DENSHOW 佐賀・絶景伝承芸能』のサイト。ダイナミックに動くDENSHOWの文字や、インパクトのあるグラフィックが印象的に使われており、ページを開いた瞬間から心を奪われました」(赤松さん)細尾さん注目のノミネートサイト▲SDA 2023 ノミネート 「Studio Mora Mora」「イラストを多用する案件が多いので、『バイオリン工房 Studio Mora Mora』のサイトには心惹かれました。通常、楽器工房のサイトといえば写真中心の落ち着いたイメージが強いですが、このサイトでは大胆なイラストの配置や、ダイナミックなレイアウトによって新鮮な印象が際立っており、『Studioでここまで表現できるんだ』と感じました」(細尾さん)グランプリ受賞者たちがどのようにSDAの機会を活用し、自社や自分自身のブランディングへとつなげているのかが語られた本イベント。「グランプリを取ったら何が変わるのか?」と疑問を抱いているクリエイターにとって、彼らの経験談は大きなヒントになったのではないでしょうか。SDA2024のテーマは『Splash Your Colors』。2024年12月29日のエントリー締め切りを経て、今回も多彩なサイトが集結しました。一体どのようなサイトがノミネートされ、グランプリの栄冠をつかむのか。ノミネートサイトの発表は1月20日、受賞サイトの発表および授賞式は2月7日を予定しています。あなたのサイトも、もしかしたら選ばれているかもしれません。発表をお楽しみに。