JR東日本が提供する運用型広告「JRE Ads」が 広告主の成果を最大化できる理由とは
大崎 博之
2024.11.29
Updated:2024.11.29
JR東日本が提供するJRE Ads。プロジェクト発足の背景や、ノーコードWeb制作プラットフォームStudioの導入について語ってもらった。

Profile
川合 秀一
東日本旅客鉄道株式会社
JR東日本 マーケティング本部 戦略プラットフォーム部門 デジタルビジネスユニット2016年東日本旅客鉄道株式会社入社。出向で、小売店の運営・広告代理店営業を経験。
JR復職後は、交通広告の媒体開発、新規事業を担当。現在は、JRE Adsをはじめとしたデジタルコミュニケーション施策の推進を担当している。
2023年4月からJR東日本グループが展開している、自社の保有するファーストパーティデータを活用した運用型広告「JRE Ads」。
2020年のコロナ禍以降、鉄道の利用者が減少したことにより、従来の交通広告による乗客とのコミュニケーション接点が失われつつあることが課題であった。その活路としてJR東日本が持つ駅・鉄道利用のデータを用いたインターネット広告を開始し、順調に広告主への価値提供を積み上げている。
今回は、JRE Adsの計画初期から携わったJR東日本の川合秀一氏に、サービス立ち上げの背景や実際の活用事例、今後の事業展望を伺った。
誕生のきっかけは「自社サービスの広告配信におけるファーストパーティデータ活用」
JRE Adsがリリースされたのは2023年3月のこと。JR東日本が保有するSuicaの移動履歴などの「確定データ」を活用することで、駅・鉄道を実際に利用したユーザーへの広告配信を実現している。

改めてJRE Adsはどのような背景から生まれたのか。
まず着目したのは、自社で保有するファーストパーティデータを自社サービスの集客・販促で利用することだったという。世の中では運用型広告がすでに主流。さらにはCookieの規制強化も進んでいたことから、これらの外部環境を味方にしつつ、自社サービスの利用を促進させる打ち手を考えたのだ。
具体的には、Suica利用者による「駅移動の履歴・購買履歴」といった生活者のデータを、MetaやGoogleなど広告プラットフォームでのターゲティングに活用するソリューションを検討した。
多種多様なターゲティングに合わせたランディングページをノーコードで制作
その後、実際にファーストパーティデータを使った広告配信を開始したわけだが、運用改善を行うにあたっての課題が見つかった。LP(ランディングページ)の最適化だ。筋の良いターゲティングを思いついても、そのターゲットに最適なLPを用意する体制が整っていなかったのだ。
当時、WebサイトやLPの制作は広告代理店機能を持つ子会社に任せていた。そのため、制作・修正を依頼してから、実際にLPが仕上がるまでのタイムラグが発生していた。
この課題に対して、川合氏はノーコードでLPを制作できる「Studio」を導入。学習コストの低い「Studio」を活用すれば、JR東日本側でリアルタイムにLPを変更できるのではと考えた。導入後は当初の目論見通り、マーケター自身がLPをマネジメントできる体制を構築できている。
そういった背景もあり、JRE Adsのサービス化を検討する際にも「JRE AdsとStudioをセットで提案してはどうか」と思い至ったという。LPをノーコード化することは、広告主はもちろん、広告代理店にもメリットが大きい。制作・運用コストを削減し、スピーディな改善を行うことで広告主の成果を最大化できるのではないかと考えたのだ。
「新橋駅の通勤定期保有者」をターゲティングし、CPAが3分の1まで改善
JRE Adsでは、どのような事例が生まれているのか。川合氏によって紹介されたのは、2024年2月にグランドオープンした「汐留橫丁」での運用ケースだ。

施設内には常時10店舗以上が出店しており、店舗ごとに記事型LPを用意し広告配信を行っているという。最寄り駅である新橋駅を昼食時に利用している人たちであればラーメンに興味があるかもしれないし、夕方に退社する人たちであれば居酒屋のニーズがあるかもしれない。JRE Adsであれば、「新橋駅の通勤定期保有者」に限定したリスティング広告の出稿も可能となる。
その際にLP側で調整を図りたいのは、検索クエリに連動した記事タイトルの変更や企画の切り口だ。学生向け、会社員向け、女性向け、家族向けなど、見せ方のバラエティは多様に考えられる。
また、LPはノーコードツールStudioで制作しているため、これらの仮説を迅速にLPに反映することが可能だ。加えて、検索クエリに合わせたコンテンツを作成し、品質スコアを高めることも容易に実施できる。
その結果、本事例では通常配信に比べて獲得コストを3分の1程度まで抑えることができた。

広告主・広告代理店にもメリットがある、三方よしの制作体制を構築
広告プロダクトの運営会社として、プロモーションを行う広告主・広告主への提案を行う広告代理店との制作・運用の座組をどのように構築しているのか?
JRE Adsでは、JR東日本の持つドメイン配下で複数の広告代理店がプロジェクトを立て、各代理店がLPを簡単に作れる体制を整えている。
この体制構築に特に役立ったのが、ドメイン配下の一部のページだけをノーコード化できる「カスタムプロキシ」というStudioの機能だ。これまでは広告代理店ごとに独自ドメインを取得してLPを制作するという手間があったが、これによってJR東日本の保有する「jreast.co.jp」ドメインのサブディレクトリにLPを集約することを実現している。

広告配信において重要視される品質スコアも、JR東日本のドメイン配下に設置することで改善が見られることが多くある。ドメインパワーが低いクライアントの場合でも、JR東日本のドメインの力を借りることでWeb広告で成果を出しやすくなる、そんな環境を提供できたら嬉しいと川合氏はかねてより考えていたという。
また、「ワークスペース」機能を活用することでLPやメンバーを一元管理することができ、詳細な権限コントロールによる情報統制も万全だ。情報管理はクライアントへの安心感にもつながるため、国内大手の交通事業者としてもサービスの提供価値がさらに上がると考えている。
さらに、日々のLP制作・運用も各代理店が行っている。Web制作の経験が豊富ではない広告運用担当者でも直感的にWebサイトを扱うことができ、数値改善のためのLPOも実施しているという。
JRE Adsの成長にフィットするようなStudioの機能に、驚きつつも感謝していると川合氏は語る。
タッチトリガー導入によって、よりリアルタイム性の高い広告配信が可能に
広告主の成果最大化のために、運用体制だけでなくより高度なデータ活用の取り組みも仕掛けている。それが、Suicaタッチトリガーの導入だ。
今まで改札機で処理していたSuicaの入出場データをクラウド化することで、改札の入出場というイベントをよりリアルタイムに扱えるようになり、広告配信やMAツールのトリガーとして利用できるという算段だ。

想定されるユースケースとしては、「駅を出たタイミングでタクシーの配車を行う」「改札入場時にニュースや動画などスマホ向けのコンテンツを配信する」などが考えられる。
現在すでに山手線内の全駅で導入済みで、平日1日平均で約670万回もの改札タッチのデータを取得している。こういった新たなデータ取得の取り組みも行い、JRE Adsはより成果を生み出すプロダクトへと進化を続けていく。
「JRE Ads × Studio」で見えたJR東日本が提供するオンライン広告の展望
もともとは交通広告の代替手段として始まった、駅利用の確定データを活用したターゲティング広告「JRE Ads」。今後の展望としてローカルビジネスや季節性があるサービスに向けての提供に価値を感じているという。
JRE Adsが持つ「えきねっと」の観光データや新幹線の予約データなどを使った広告配信は、ローカルで展開をしているビジネスを取りまとめている自治体などとの相性が良い。さらに、Studioは学習コストが低く運用に多くのリソースがかからないため、すでに多くの中小企業や自治体で導入されている。
ローカルな事業者にとって情報を伝える手段は、かつて折り込みチラシや新聞広告などであったが、それも昨今のデジタル化によって、縮小しつつある。その中でリアルなユーザーの動きを軸としたオンライン広告を配信できるJRE Adsはローカルビジネスの課題解決の糸口になると川合氏は考える。
そのプロジェクトの成功を握る鍵のひとつとして、Studioは必要不可欠な存在となりつつある___