「ものづくりの文化」を築くプラットフォームへ。“Studio案件”の増加から考える、これからのWeb制作プロフェッショナルのあり方
Studio
2025.03.14
Updated:2025.03.11
SDA 2024では『Web Designing』とのコラボレーション企画としてトークセッションを開催。テーマは、「クリエイティブ・ビジネス両面から探る“Studio案件”の実情」。多彩な視点が交差する中で見えた、未来のプロフェッショナルのあり方とは。

2025年2月に開催されたWebデザインの祭典「Studio Design Award 2024」。Studioを使用するクリエイターが一堂に会するこのイベントでは、『Web Designing』とのコラボレーション企画であるトークセッションが行われました。
トークテーマは、「クリエイティブ・ビジネス両面から探る“Studio案件”の実情」。StudioでのWeb制作が企業・個人ともに浸透しはじめ、“Studio案件”という名目でノーコード・ローコードのお仕事を受ける機会が増えるなかで、ビジネスやクリエイティブのあり方はいかに変わっていくのでしょうか?
登壇者として白熱の議論を交わしたのは、Web制作などクリエイティブの第一線で活躍する経営者とクリエイターの豪華ゲストのみなさんです。mount inc. CEOのイムジョンホさん。necco inc. CEOの阿部文人さん、CTOの佐藤あゆみさん。STARRYWORKS inc. Designerの西村沙羊子さん。モデレーターは『Web Designing』編集長の五十嵐正憲さんが務めました。
徹底的に“クリエイティブの質”にこだわるmount CEOのイムさんは、「まだStudioを使ってWeb制作を手がけたことがない」と言います。そんなイムさんと、実際に制作現場でStudioを多用するクリエイターの方々との対話から見えてきた、Studioでの制作案件の幅が広がることのメリットとデメリット、そしてこれからのプロフェッショナルのあり方とは。
クリエイターにとって、Studioを選ぶ理由とは?

五十嵐:本日はよろしくお願いします。今回のテーマは「クリエイティブ・ビジネス両面から探る“Studio案件”の実情と未来」というわけで、最初はクリエイターの目線から見たStudioの魅力やメリット・デメリットについて探っていきたいと思います。まず、イムさんは「これまでStudioを使ったことがない」とおっしゃっていましたよね。
イム:そうなんです。ただノーコードツールに対してポジティブな印象は持っていまして、特にStudio代表の石井さんと対談した際に、プロトタイプツールとしての可能性や、ビジネス面でのメリットを強く感じました。今日は現場で実際にStudioを使った制作に携わっているみなさんに、その感触や生の意見をお聞きできればと思っています。
さっそく質問なのですが、制作会社で案件に携われるなかで、具体的にどんな場合に「Studioを使おう」と選択されるのでしょうか?
西村:最近はクライアントから「Studioを使いたい」と要望が挙がるケースが多々あります。そのほか、アウトプットまでの期間を大きく短縮したい案件や、短期間でもデザインのクオリティにこだわりたい案件で、Studioが選択肢として出てきますね。
もう少しテクニカルな話をしますと、たとえばStudioは『Google Fonts』『TypeSquare』『FONTPLUS』と提携しており、日本語フォントを丁寧に扱う私の制作スタイルとは相性が良いと感じます。また、私は自主制作をよく行うのですが、カメラで撮りためた写真をSNSで何十枚もアップロードするよりも、Studioでサイトをつくってしまったほうが手間がなく早いとすら感じます。

佐藤:私は肩書としてはCTOなのですが、Studioヘビーユーザーの観点からお答えします。おっしゃるとおり、最近はクライアントから「Studioで制作してほしい」と依頼されて使うことが多く、特にスタートアップ企業はStudioを選ぶ傾向がありますね。その理由はおそらく、スピーディーにサイトを立ち上げて状況にあわせて迅速に更新できること、「かっこいいサイトが作れる」というブランドイメージがある方が数多くいることだと思います。
また、最近私は専門学校でもStudioの使い方を教えています。もともとWebデザインを学ぶ生徒にとって、最適なデザインができることを目指してコーディングを教える授業だったのですが、時代の潮流として「必ずしもWebサイトをコードでつくる時代ではなくなってきた」と感じることがありまして。CMSを教えることもありますし、その一環でStudioを取り扱っていますね。
イム:なるほど。コーディングやエンジニアリングが苦手なデザイナーにとってはStudioを使うメリットが大きいと思うのですが、エンジニアがあえてStudioを使う理由は何だと思いますか?
佐藤:まず、自分でシステムをセットアップする必要がないため、リスクや手間が大きく減ります。というのも、たとえば最近ではWebサイトの配信を最適化するためにCDNをセットアップするんですが、自力でやろうとすると、契約や設定が結構大変なんです。一方で、Studioの場合はこうした高度な設定が基盤として整えられているので安心してクライアントに提案できます。エンタープライズプランもあるので、大規模サイトの安定稼働をサポートしてもらえる点も有難いですね。

イム:ちなみに普段コーディングをやっている実装者の場合も、Studioを使った方が早いと思いますか?
佐藤:むしろWebレイアウトの仕組みをよく理解している人であるほど、裏で書かれているコードまで考えながら実装できるので逆算してコードを書けるので素早く開発ができると思います。
一方で、サイト全体でカスタムコードを駆使してすごく変わったことをやろうと思うとスクラッチ開発の方が早い可能性があります。ただ、いわゆる一般的なコーポレートサイトをつくるのであれば、Studioのほうが早いと思いますね。
「ものづくりの文化」を築いていくビジネスのあり方
五十嵐:Studioで制作するメリットはやはり実装のスピード感にあるというわけですね。その点を踏まえて、続いて「ビジネスの視点から見たStudio」についてお話ししたいです。
イム:このトピックで僕がお聞きしたいのは、Studioを使えると案件獲得に繋がるのか。あるいは経営の観点でリソースの効率化ができるのかという点です。たとえば、デザイナーがStudioを使えると、受注の幅が広がるという意見もありますよね。
阿部:そうですね。先ほど佐藤もお話ししたように、弊社では「Studioを使ってサイト開発したい」というクライアントの要望で案件が始まるケースが多々あるので、受注には繋がっています。そして、やはりStudioを使うとコーディングをかなり短縮できることで、効率的に開発を進めて納期を短くできます。
しかしここでのポイントは、クライアントにきちんと「Studioで制作した場合と、スクラッチ開発の場合で、トータルの費用感は大きく変わりません」と説明することだと思っています。

イム:なるほど。たとえば、フルスクラッチで制作する場合に必要な費用が10だとすると、Studioだとどれくらいになるんでしょうか?
阿部:弊社では8〜9ぐらいになりますね。
イム:ここは非常に重要なポイントだと思いますね。Studioで制作して実装工程を短縮したからといって、出来上がったサイトの価値は変わらないのだと。
個人的にすごく聞きたかった話なんですが、最近SNSなどで“Studio案件”といった表現がよく見受けられますよね。その言葉についてはどのようにお考えでしょうか?というのも、この言葉には「Studio = 安く作れる」という意図が含まれているような気がしていまして。
阿部:見かけますね。「ノーコードツールのStudioでもここまでWebサイトがつくれる!」という意味だと認識していたのですが、たしかにStudioはLPやキャンペーンサイトといった少数ページに特化しているというイメージがまだ根強いので、「安い」というニュアンスもやや含まれているように感じます。

イム:そうですよね。もしも“Studio案件”という言葉が「安くつくれる」という印象に偏っていくと、業界全体がそういうものとして見られてしまうリスクがあると感じていて。この業界で私は25年以上働いていますが、結局私たちのアウトプットはお金で評価されていて、100円で納得されるものは100円、1000円で納得されるものは1000円の価値ですから。
だからこそ、これからのStudioにはものづくりの文化をしっかり築いてほしいと思います。つまり、クリエイターにとって学びの入り口でありながら、ビジネスとしてもしっかり成立するプラットフォームであってほしいんです。効率的にWebサイトをつくれる素晴らしいツールとしてだけでなく、クリエイティブに適切な対価が支払われるような、業界全体をより良くする土壌づくりを担ってほしいんですよね。
阿部:僕も同感です。そして、Studioは抗っているように見えますね。こうした授賞式イベントもそうですし、ノベルティなど一つひとつのクリエイティブ、「いいものをつくれる」という打ち出し方など、決して「安くて早い」という印象にならないよう導いてくれているのではないかと思っています。
イム:はい。ちなみに誤解のないよう説明しますが、私自身は“Studio案件”を「安くつくれる」と営業すること自体は悪いとは思っていません。たとえば、状況に応じてそういった打ち出し方をするのは、それはそれで正しいと思います。
私が言いたいのは、実力のある制作会社やプロフェッショナル集団がそのような見方をされるのは決して望ましくないということ。「きちんとプロフェッショナルにはふさわしい対価が支払われるべきだ」という雰囲気を業界全体でつくっていくことが重要だということです。

Web制作の障壁を取り払い、これからの時代の「スター」を生み出していく
五十嵐:最後にラップアップに入りたいと思います。弊誌の『Web Designing』では質の高いWebサイトを取り上げるコーナーがあるのですが、特に審査基準としてノーコードかどうかといった点は考慮していないものの、掲載数が年々増えてきています。おそらく、Studioはクリエイターの能力や魅力を発揮させるプラットフォームなのだと思います。
さらに本日のお話を伺っていると、良いWebサイトをつくるには制作に直接携わるクリエイターの力量だけでなく、その背景で経営者や事業部門がきちんとビジネスとして成立するように動き、クライアントを説得して十分な制作費を確保するなど、Studioを最大限に活かしてクリエイターが活躍できる環境を整えることが重要なのだと感じました。
そして、最後にみなさんからも一人ひとり感想をいただきたいと思います。

西村:そうですね、まずはこのような場をいただけて光栄です。やっぱり私にとってWeb制作やデザインは楽しくて、その気持ちを忘れずにいたいなと思っています。「つくりたい」という衝動が湧いたときに、モチベーションを高く保ちながらつくれるという点でStudioは最適なので、今後も使い続けたいなと思っています。
佐藤:Studioを教える立場でもある私としては、生徒が「Studioを学んで知り合いのサイトをつくってあげることができました」といった話を聞いたとき、すごく嬉しかったんです。デザイナーにとっては、コーディングするよりもStudioを触りながらサイトをつくる方が圧倒的にゴールに近くて早い。これからも、学生たちが学ぶ障壁を取っ払って機会を与え続けてくれると嬉しいですね。
阿部:ビジネスの話でイムさんが気にしていた“Studio案件”という言葉は、私も気になっています。制作会社を経営していて一番気をつけなきゃいけないと思うのは、「Studioだからつくる」という状況や、Studioをゴリ押しすることだと思っていて。そうならないように、スクラッチ開発も含めてクライアントに最適なツールが何かしっかり考えて、きちんと選択肢を提示していくことを大事にしたいですね。
イム:阿部さんがお話したとおり、最適な手段がStudioである場合は積極的に使っていく、という姿勢が大事なんだと思います。私たちもStudioを使わなきゃいけない場面であったり、その流れが来たらぜひ前向きに利用を検討したいと思います。

五十嵐:最後にイムさん、締めの言葉をお願いします。
イム:僕はStudioによって作り手の間口が広がったことは本当に素晴らしいと思います。こうして作る人が増えて、良い結果が生まれて、それに相応の対価が払われる循環が生まれていく。StudioがWebデザインやサイトをつくる、企画・制作していく人の文化を支えていただけるといいなと思いますね。
あと最後に、今回の受賞式イベントのような取り組みは素晴らしいと思うんですよね。やっぱり必要なのは「スター」なんだと思います。これからも、スポットライトが当たって時代を牽引していくクリエイターが増えていってほしいなと個人的にも思っています。
