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Webサイトに“ビジョン”を宿す。クリエイティブディレクター・引地耕太が語る、万博で実践した「育てるデザイン」の哲学

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2026.03.13

Updated:2026.03.13

「Studio Design Award 2025」で行われた、クリエイティブディレクター・引地耕太氏をゲストに迎えたトークセッションのレポートです。引地氏が語る「庭を育てるようにデザインする」という考え方を起点に、ブランド戦略の全体像と、これからの時代におけるWebサイトの役割について話を聞きました。

Profile

  • 引地 耕太

    クリエイティブディレクター/株式会社 VISIONs 代表取締役/一般社団法人 COMMONs 代表理事

    大阪・関西万博デザインシステム「EXPO 2025 Design System」の設計、NHK紅白歌合戦のクリエイティブ・アートディレクション、ナイキのインスタレーション、Kyashのリブランディング、日本財団パラリンピックサポートセンターのブランディングなど、ブランド戦略から空間・体験設計まで領域を横断するプロジェクトを手がける。2024年に株式会社VISIONsを設立。

2026年2月に開催されたWebデザインの祭典「Studio Design Award 2025」。Studioで制作された優れたWebサイトを表彰するこのイベントで、トークセッションが行われました。

ゲストは、クリエイティブディレクターの引地耕太さん。大阪・関西万博のデザインシステム制作やNHK紅白歌合戦のクリエイティブおよびアートディレクションなど、国民的といえるプロジェクトを手がけてきた人物です。

引地さんの仕事に通底しているのは、完成品をつくり上げるのではなく“余白”を残し、人が参加できる仕組みを設けるという思想。万博ではその余白から「こみゃく」を代表としたユーザーの二次創作文化が生まれ、紅白ではロゴやキービジュアルがアーティストを引き立てる“舞台装置”として機能しました。

引地さんはこうしたアプローチを「庭を育てるようにデザインする」と表現します。そして、その“庭づくり”の起点になり得るのが、ビジョンを最も純粋に届けられる場としてのWebサイトだと語ります。

Studio執行役員COOの吉岡ヤスが聞き手となり、引地さんが実践するブランド戦略の全体像からこれからの時代におけるWebサイトの可能性まで、じっくりと話を聞きました。

万博の“余白”と紅白の“舞台装置”。「庭を育てるデザイン」の実践

吉岡:まずは引地さんの活動について聞かせてください。昨年は大阪・関西万博が開催されましたが、このデザインシステム「EXPO 2025 Design System」の制作を担当されたのが、大きな出来事だったのではないでしょうか。

引地:そうですね。担当することになったきっかけは、開催の4年ほど前にプロポーザルへ参加したこと。その際に、万博におけるブランド体験をどうつくっていくか、ロゴをどう展開させるかといった仕組みや考え方、哲学をひとつのシステムとして設計し、提案したのが出発点でした。

吉岡:プロポーザル、いわゆるコンペの段階から関わられていたんですね。

引地:はい。そこで提案したのが、ロゴの展開ルールでした。ロゴのなかには細胞がモチーフになっている部分があって、そのひとつを切り出して「ID」と呼んでいました。この目玉さえあれば、形や柄、色は自由に変化してもいいというプロトコルを定めたんです。すると二次創作が活発になって、いろんな方が参加してくれた。

ネット上で「こみゃく」と名付けられたのも、デザインシステム上の命名ではなく、ユーザーから自然に生まれた名前なんです。

吉岡:なるほど。あえて余白を残すことで、ユーザーが参加できる余地を生み出したわけですね。

引地:そうなんです。この考え方は、「庭のようにブランドを育てていく」とも表現できます。一方的に作って完成させるのではなく、余白を大切にしながら全体を整え続ける。私は“庭師”のような役割を果たしていたのだと思います。

吉岡:続いての活動事例は「紅白歌合戦」のクリエイティブおよびアートディレクションですね。

引地:これも印象的なお仕事になりました。万博の展覧会をしていた時に、NHKのスタッフの方が見に来られて感動してくださったそうで、それがきっかけとなりお声がけいただいて。万博が仕事を連れてきてくれたのかなと、とてもありがたく感じましたね。

今回はNHK放送100年の節目でもあり、「つなぐ、つながる、大みそか。」というテーマがありました。これからの100年は世代、性別、言語、人種——さまざまな異なるものがそれぞれの個性を保ちつつもつながり合い、ともに新しい未来をつくっていく時代になってほしい。その想いを込めて、かつての紅白の伝統的なロゴにリスペクトを込めながら、あえてシンプルにつなげるデザインにしました。円環にも見えるこのロゴは、循環し続ける未来も表現しています。

吉岡:過度な装飾ではなく、シンプルなものを選んだのですね。

引地:シンプルであることこそが重要でした。節目の年だからこそ、紅白らしいオーセンティックさや王道感を意識しつつも、モダンで洗練されたものを目指したんです。

そのうえで、紅白の主役はあくまでアーティスト。ですから、デザインやロゴだけが目立つのではなく、アーティストのみなさんの背景になるような、“舞台装置”として機能させたかったんです。背景のキービジュアルパターンやフォトブースなど、色々な形で展開していますが、どれも赤と白をつなげるというシンプルなコンセプトから派生したものです。

ビジョンから文化へ。ブランドを育てる5つのプロセス

吉岡:昨年の代表的な活動をご紹介いただきましたが、引地さんが実際にどのようにお仕事を進めているのか、気になる方も多いと思います。

引地:基本的にどのプロジェクトでも、ブランド戦略を円のような構造で捉えるようにしています。順番に進めるプロセスというよりは、まず真ん中に「理想像をつくる」——ビジョンデザインがある。なぜこの事業をやるのか、存在意義や価値を可視化・言語化するところが、すべての起点です。場合によっては、明確な答えを示さずあえて「問い」のかたちにして、関わる人たちが考えていけるフレームをつくることもあります。

その真ん中の周りに、ほかの要素が広がっていきます。ゴールに旗を立て、そこへ至るルートを経営者と一緒に考えるビジネスデザインとしての「地図をつくる」、ブランドを体験できるタッチポイントづくりとしての「場をつくる」、ビジョンに共感する人をインナーからアウターへ広げていく「仲間をつくる」、クリエイティブやトーンオブボイスを通じて「好きだな、使い続けたいな」と思ってもらう「愛着をつくる」。

全体として見ると、真ん中にビジョンがあって、その周りにいろんな接点を持つ仲間が広がっている図になります。仲間が増え、この円が大きくなっていくことが、ブランドとして成長していくということなんです。

そして、最終的なゴールが「文化をつくる」。結果的に文化と呼べるまで世の中に受け入れられ、浸透していくことが、自分の仕事におけるひとつの到達点だと思ってやっています。

吉岡:今日の「Studio Design Award 2025」の場も、プロセスのひとつである「場をつくる」の実践と言えるかもしれません。

引地:まさにそうだと思います。Studio自体はWebサービスでありながら、あえてリアルに交流できる機会を設けていることにこそ、大きな意味がありますよね。

吉岡:引地さんが取り組む実際のプロジェクトにおいて、これらのプロセスはどのように表れてくるのでしょうか。

引地:OMRONさんと取り組んだ「FUTURE STATION INNOVATION PROJECT」がわかりやすい例のひとつだと思います。

OMRONさんは、券売機や改札機を電鉄会社に販売する事業を持っているのですが、スマホ決済や生体認証が普及していくなかで、そもそもあの大きな機械が今後も必要なのかという根本的な問いがあった。

そこでまず「理想像をつくる」として、“未来の駅のビジョン”を描きました。たとえば、自動運転車が普及すれば、駅前という一等地の価値も変わるかもしれない。既存のハードウェアを売り続けるのではなく、駅という場そのものの役割を再定義する必要があるのではないか…といった、プロジェクトの根幹となる問いをビジョンとして定めていきました。

次に取り組んだのが「地図をつくる」。OMRONさんはもともとセンサーの会社ですから、巨大な改札機がなくても複合的な生体認証で入場・出場の管理はできる。そのセンサー技術を軸に、駅で取得できる行動データと周辺サービスを接続させた新しいビジネスモデルを提案しました。

そして、ここで大事になったのが「仲間をつくる」です。どんなに優れたビジネスモデルでも、OMRONさん単体では実現できない。電鉄会社をはじめさまざまなステークホルダーに共感してもらい、参加してもらう必要がありました。だからこそ、ビジョンを誰にでも伝わるように可視化すると同時に、関係者が「自分も関わりたい」と思える場の設計も行ったんです。

「ビジョンを最も純粋に届ける場所」として。これからのWebサイトの可能性

吉岡:クリエイティブディレクターとして数多くのプロジェクトに携わる引地さんですが、これからのWebサイトの役割についてはどうお考えですか?

引地:Webサイトは、これからも「ビジョンを最も純粋に届けられる場所」であり続けると思っています。SNSがどれだけ発展しても、会社やプロジェクトのビジョンをSNSだけで伝えきるのは難しい。一方でWebサイトなら、世界観を作り込めるし、細部のクラフトにもこだわれる。

僕は自分のプロジェクトにおいて、新たな関係性を紡ぐ起点として、Webサイトを位置づけているんです。訪れた人がビジョンに触れて、「こういう方向を目指しているんだ」と感じ取れる。社会や環境が変化しても、今後もビジョンを伝える場としてのWebサイトの価値は、必ず残り続けると思っています。

吉岡:まさに、先ほどの5つのプロセスの中心でもある「理想像をつくる」において、Webサイトが貢献できるということですね。

引地:そのとおりです。最近はWebサイトに対して「情報を端的に、効率よく伝えればいい」という考え方が主流になりつつありますよね。もちろんそれも大事なのですが、先ほどの5つのプロセスで言えば、Webサイトは「ビジョンデザイン」を最もストレートに体現できる場所でもある。であれば、情報伝達としての効率だけを重視するのではなく、ビジョンや世界観を深く伝えるメディアとしてWebサイトを捉え直すことで、表現の可能性を一気に広げられるのではないかと思っています。

吉岡:今回の「Studio Design Award 2025」にノミネートされたWebサイトの中で、特に気になったものはありますか?

引地:どれも素晴らしい作品ばかりでしたが、なかでも「美濃保育園」のサイトが印象に残りました。写真のトーン、余白の取り方、言葉の選び方——すべてに一貫した世界観があるんです。

▲ 美濃保育園 | 岐阜県美濃市の幼保連携型認定こども園

テクニカルな巧さというよりも、この保育園が何を大切にしているかというビジョンが明確だからこそ、ここまでつくり込めたのだろうと思いました。

まさに先ほどお話しした、ビジョンを伝える起点としてのWebサイトを体現しています。思わず世界観に浸ってしまうし、僕はここに自分の子どもを入れたいと思いました。子どもはもう、保育園の年齢ではないのですが……(笑)。でも、そう感じさせるのは、やっぱりビジョンが伝わっている証拠ですよね。

吉岡:最後に、引地さんが今後挑戦していきたいことについて教えてください。

引地:ひとつ挑戦していきたいのは、まちづくりですね。最近、大きな都市からローカルな街まで、さまざまなまちづくり系のプロジェクトの依頼が増えていて。ただ、特にローカルなまちづくりでは何億円という予算は当然出ない。そうなると、限られたリソースをどう配分するかが重要になります。

僕はまず、Webサイトでビジョンを示すことを優先するんです。先ほども触れたとおり、Webサイトはビジョンをしっかりと形にできる場所だからです。そのうえで、残りのリソースはまちにおけるコンテンツづくりに注いでいく。

Webサイトをつくって終わりにせず、そこを起点にして、地域の人を巻き込みながら育てていくことが大切です。先ほどの「庭を育てるようにデザインする」という考え方は、まちづくりでもまったく同じだと思っています。

吉岡:まちづくりにおいても、ビジョンを起点にして育てていくというアプローチは変わらないのですね。そう考えると、Studioは相性がいいのかもしれません。現場の方が直接触ってコンテンツを更新できるので、まさに“育てる”ためのツールとして機能しそうです。

引地:庭師にとっての、いい道具になると思います。ぜひ使わせていただきたいですね。

吉岡:ビジョンがしっかり込められた作品が、次回も数多くノミネートされることに期待したいと感じました。引地さん、本日は貴重なお時間ありがとうございました。

引地:こちらこそ、ありがとうございました。

本セッションに登壇いただいた引地さんがデザインシステムを手がけた2025年日本国際博覧会(大阪・関西万博)の展覧会「みゃくみゃくとつなぐ展 ~万博とひらく未来~」が、2026年4月13日(月)まで日本科学未来館にて開催中です。

万博のデザインや構想の背景をあらためて体験できる機会となっています。ご興味のある方は、ぜひ足を運んでみてください。

>みゃくみゃくとつなぐ展 ~万博とひらく未来~ 大阪・関西万博の成果を未来へ | 日本科学未来館 (Miraikan)

【Credit】
Photographer : Uchino Hideyuki
Writing : Kurimura Tomohiro

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