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AI時代の“分水嶺”はどこにあるのか。余白を残し、判断を手放さないものづくりの哲学──色部義昭 × 緒方壽人

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2026.03.16

Updated:2026.03.16

2026年2月開催の「Studio Design Award 2025」で行われたトークセッションに、色部義昭さんと緒方壽人さんが登壇。大阪・関西万博にも携わる二人が、フィジカルとデジタルの接点での実践をもとに、テクノロジーと人間の関係、そして“余白”を残すデザインの思想について語りました。

Profile

  • 色部 義昭

    グラフィックデザイナー/アートディレクター。株式会社日本デザインセンター専務取締役、色部デザイン研究所主宰

    主な仕事にOsaka MetroのCI、国立公園ブランディング、草間彌生美術館・市原湖畔美術館のサイン計画など。大阪・関西万博では日本館のアートディレクションを担当した。亀倉雄策賞、東京ADC賞、SDAサインデザイン大賞(経済産業大臣賞)など受賞多数。AGI会員。

  • 緒方 壽人

    デザインエンジニア。Takramディレクター

    ソフトウェア、ハードウェアを問わず、デザインとエンジニアリングを横断する活動を行う。主なプロジェクトにNHK Eテレ「ミミクリーズ」のアートディレクション、21_21 DESIGN SIGHT「アスリート展」展覧会ディレクターなど。大阪・関西万博ではシグネチャーパビリオン「いのち動的平衡館」の展示設計を担当した。グッドデザイン賞、ドイツiFデザイン賞など受賞多数。著書に『コンヴィヴィアル・テクノロジー 人間とテクノロジーが共に生きる社会へ』(BNN)。

2026年2月に開催されたWebデザインの祭典「Studio Design Award 2025」。Studioで制作された優れたWebサイトを表彰するこのイベントで、グラフィックデザイナー/アートディレクターの色部義昭さんとデザインエンジニアの緒方壽人さんを迎えたトークセッションが行われました。モデレーターを務めたのは、Studio代表の石井穣です。

色部さんと緒方さんの共通項のひとつは、2025年の国際博覧会(大阪・関西万博)に携わったこと。色部さんは日本館のアートディレクションを、緒方さんはシグネチャーパビリオン「いのち動的平衡館」の展示設計を担当しました。

そしてもうひとつ、フィジカルな空間とデジタル技術の“接点”で仕事をしてきたこともまた、二人の共通点として挙げられます。緒方さんは著書『コンヴィヴィアル・テクノロジー 人間とテクノロジーが共に生きる社会へ』の中で、「テクノロジーは人間にとって“ちょうどいい”道具になれるのか」という問いを掘り下げています。色部さんもまた、幅広く“デザイン”に携わる中で、同じ問いと向き合い続けてきました。

さまざまなテクノロジーに手が届く環境にいながら、あえて「余白」を選ぶ——二人がその判断を選ぶ背景にある哲学が、このトークでは繰り返し浮かび上がりました。

万博での実践──表現を足すよりも余白を残す

石井:AIをはじめテクノロジーの発展が加速する中で、人間はなぜ“作る”のか。今回のセッションはそのヒントを探る、お二人の意志やパッション、こだわりといった内面に迫っていけるような時間にできたらと思っています。まずは、それぞれ自己紹介をお願いできますか?

色部:日本デザインセンターの色部です。普段は色部デザイン研究所という10人ほどのチームを率いて仕事をしています。

緒方さんとの共通項でいうと、昨年の大阪・関西万博の仕事をしていたことが挙げられます。私は「日本館」のアートディレクションを担当し、循環をテーマにした全12号のWebマガジン「月刊日本館」の制作や、館内のサイン計画、展示物を紹介するグラフィックデザインなどを行いました。

普段から「日本館」の仕事のように“フィジカルなメディア”を扱うことが多くあります。その中でも、たとえばサイン計画はWebサイトの制作と似た考え方で設計しており、今日会場にお越しのみなさんの活動とも通底する部分があるかもしれません。入り口があって、中に入っていって、中身を体験する。いわゆる“シークエンス”の設計は、フィジカルでもデジタルでも共通だと考えています。

緒方:Takramの緒方と申します。デザインエンジニアという肩書きで、デザインとエンジニアリングの両方にまたがるような仕事をいろいろとやってきました。昨年は大阪・関西万博のシグネチャーパビリオンのひとつ、生物学者の福岡伸一さんがプロデュースする「いのち動的平衡館」の展示を担当しました。

「動的平衡」という難しい概念をわかりやすく伝えるためにつくったのが、32万球のLEDを使い、360度どこからでも立体的に見える映像装置です。コンテンツの企画だけでなく、LEDの装置自体を基板の設計から手がけました。何を見せるかを設計するデザインの領域と、設計したものを具体的に実現するテクノロジーの領域。そのふたつを一体としながら作り上げていきました。

石井:お二人ともありがとうございます。お二人の作品を見ていると、表現のバランスの良さから“優しさ”を感じます。派手さを求めようと思えばいくらでもできるのに、どれも目的や文脈に沿ったデザインを大切に作られている。そうした“ちょうどいいバランス”は、どうやって見つけているのでしょうか。

色部:ひとつ言えるのは、決まった正解があるわけではないということです。たとえば美術館の常設サインと、イベントで盛り上がりをつくるためのグラフィックでは、ふさわしい表現の方向性がまったく違う。一方で、どんなテーマにも必ずちょうど良いバランスがあるはずです。それを自分やスタッフ、クライアントの反応などを見ながら、プロトタイプを経て探っていく感覚ですね。

緒方:すごく共感します。僕もおそらく色部さんと同じで、まず伝えたいものがあって、それに合うテクノロジーを選ぶという順番です。

たとえば万博では、最先端のテクノロジーを見せるという側面もあって、会場には4Kや8Kの高精細ディスプレイがたくさん並ぶだろうと想像できました。

でも福岡先生が提唱される「動的平衡」、物質的にはどんどん入れ替わっているのに、生きている間は自分を保っているという概念には、そうした高精細さは必ずしも合わない。だからこそ、色も使わず白だけ、LEDの間隔は約3cmと、あえて粗い映像にしました。基板から設計して、できるだけ弱い光にもしています。最先端であればいいわけではなく、伝えたいことに対して何を選ぶのが適切かを考えながら作りました。

色部:あの展示を見て、まさに緒方さんの考え方が表れていると感じました。高解像度の映像は、見ている側がどうしても“受信モード”になってしまう。でも緒方さんの映像体験は余白がある分、見る人が能動的に読み取ろうとする。そのアプローチにすごく感銘を受けました。

石井:お二人とも、表現を足すよりも余白を残す方に向かっているのですね。その感覚は、キャリアの最初から持っていたものですか?それとも経験を重ねる中で身についてきたものでしょうか。

色部:経験を重ねる中で、だと思います。若いうちは作ることに夢中で、自分のアウトプットが人にどんな影響を与えているかまで意識が及ばない。でもスキル(技術)が安定してくると、そこに余裕が生まれるんです。その余裕の中で場数を踏んでいくことで「どのくらいがちょうどいいか」を感覚的に測れるようになっていくのだと思います。

緒方:今の色部さんのお話は、テクノロジーの側面にも似たところがあると感じました。最先端を追いかけ続けることも大事。けれども、少し慣れて自分のものになってきたスキルを活かす方が、伝えたいことに合わせて自在に扱いやすく、結果的に「ちょうどいい」を実現しやすくなるのだと思います。

「らしさ」は判断の中に宿る

石井:お二人のバランスの取り方自体に、それぞれの“らしさ”がはっきり表れていると感じていて。それこそがAIにはなかなか作り出せない領域だと思っているのですが、”自分らしさ”は意識して作っていくものでしょうか。それとも、自然とアウトプットに表れてくるものなのでしょうか。

緒方:自分らしさや自己表現を意識したことは、あまりないかもしれません。都度ベストを尽くしてきて、振り返ると何らかの“らしさ”があるなと気づく。最初から出せるものでもなくて、作って、判断を重ねていく中で、自然と出てくるものなのだと思います。

色部:僕も同じで、らしさを出そうという意識は基本的にありません。むしろ消そうと努力している部分が大きいくらいです。

クライアントやプロジェクトの個性を適切に表現するのが仕事ですから、たとえば以前と同じ書体は使わない、同じ色は使わないと、意識的に繰り返しを避けているくらいで。それでも、結果的に「色部さんらしい」とは言われるので、おそらく一つひとつの判断の中にある種の傾向が生まれているんでしょうね。だから自分としては、その傾向の中だけに閉じないように、常に表現の幅を広げていきたいという気持ちがあります。

石井:お二人とも、判断を重ねる中でらしさが形作られていくということですね。一方で、その判断を支える道具やテクノロジーの方はどんどん進化しています。そうした変化は、実際の作り方にも影響を与えていますか?

緒方:大きく変わってきていますね。AIはもちろん、Studioのようなツールが出てきたことで、以前なら予算や時間の制約で諦めていたような小さなプロジェクトでも「サイトを作ってみよう」「アプリを作ってみよう」と考えられるようになった。選択肢がかなり広がっています。

僕らはプロトタイピングをとても大事にしているので「まず作ってみて、そこから考える」ことも格段にやりやすくなりました。

色部:僕のようなオーセンティックな仕事でも、確実に変わってきています。たとえば、3Dプリンターでモックアップを素早く作れたり、CGが扱いやすくなったりして、まず完成形を見てから立ち戻るようなプロセスが可能になった。InDesignを使えば数百ページの本もさっと組めるので、俯瞰した視点をより早く持てるようにもなりました。

ただ、だからといって高機能なものばかり使えばいいかというと、そうではないと思っています。たとえば、鉛筆のザラザラした感じの方が、アイデアを大づかみにするにはむしろ向いていたりするものです。

石井:たしかに、ブレストのときは結局、紙やペン、ホワイトボードを使うのが一番だったりしますよね。道具の機能と、それによって引き出される思考の関係性の話かもしれません。

緒方:そうですよね。道具は便利にしてくれる一方で、知らないうちに発想を縛ってもいる。2021年に発売した著書『コンヴィヴィアル・テクノロジー』の表紙をデザインしたとき、まさにそれを実感しました。イラストレーターで色を決めると、CMYKの値の組み合わせから選んでいるように見える。けれども、実はインターフェースの選びやすさや、デフォルトのカラーパレットに無意識に影響されている部分があるんじゃないかと考えました。

そこで『コンヴィヴィアル・テクノロジー』の表紙では、色はイラストレーター上で決めずにカラーペーパーから選びました。曲線もイラストレーターを使ったベジェ曲線ではなく、僕が紙をハサミで切って撮影したのが、あの表紙の写真なんです。まさに無意識のうちに入り込む、道具のバイアスから距離を取るための試みでもありました。

AIと自分の「ちょうどいい」バランスを探る

石井:道具が発想に影響を与える話が出ましたが、いま最も大きな変化をもたらしている道具といえばやはりAIです。AIによって、お二人の仕事は最終的にリプレースされると思いますか?

色部:完全には難しいのではないかと思います。数値的に分析できる部分は代替されていくかもしれませんが、僕たちの仕事は最終的に、細かい微差の中からひとつを選び取る“判断”の連続です。その部分をAIが担えるようになるには、まだ距離があると感じています。

緒方:色部さんがおっしゃるように、部分的には置き換えられてしまうかもしれない、という気はしています。たとえばリサーチをまとめたり、膨大なデータからインサイトを抽出する作業は、実は人間の方が偏っていて、今まで見逃していたようなことをAIの方が面白く抽出してくることもある。

一方で、間のブラックボックスはなるべくなくしておきたい。AIに一気に任せると、その間にあったかもしれない可能性を見ないまま、出来上がりだけでジャッジすることになってしまう。それではクリエイティビティは最大化しないし、やっていても面白くない。

石井:僕たちもツールを提供する立場として、AIは取り入れながらも人間が主体として、自身の創造性を発揮できる体験を届け続けたいと考えています。

AIをはじめとしたテクノロジーも、そのための“ちょうどいい”パートナーになる必要がある。緒方さんは『コンヴィヴィアル・テクノロジー』でまさにそうしたテーマを扱われていますが、本の中に出てくる「分水嶺」という考え方を踏まえると、今のAIはどう捉えられるでしょうか。

緒方:まずAIに限らず、どんな道具にも人間の力を援助してくれる部分と、行き過ぎて人間を依存させたり思考停止させたりしてしまう部分があります。その間に“ちょうどいい”が幅としてあって、その幅の中で最良のバランスを探っていくことを意識する。そうした態度でAIを扱うこと自体が、まず大事だという気がしています。

今の時点でも、AIが行き過ぎている部分は確実にあると思います。人を依存させ、思考を停止させているという現象は、すでに起きてしまっている。

ただ時代をさかのぼると、インターネットが登場したときも同じような現象が起きていたと思います。先ほども触れたとおり、どんな道具にも“両面”がある。だからこそ「楽だから」「儲かるから」という理由だけで取り入れるのではなく、一人ひとりが“ちょうどいい”バランスを常に意識し続けることがすごく大事だと思います。

色部:緒方さんの本の中で、ちょうどいい道具の代表例として「自転車」が挙げられていますよね。座ってハンドル操作したらスクーターのようにスーッと加速するわけじゃない。自分でバランスも取らなきゃいけないし、漕がなきゃいけない。道具に対して、能動的に関わらなきゃいけない。その関係性の捉え方に対して、思わず「なるほど」と思いました。

最近、あるプロジェクトで提案した内容に対して「わかりづらい印象を受けたのでAIに評価を聞いてみたところ、かなり否定的な意見だった」というフィードバックをいただいたことがありました。そのときに考えさせられたのが、人間にとって一番大事なのは、フィジカルの感覚における“フィーリング”なのではないかということです。「わかりづらいかどうか」の判断まで自分で下さずAIに委ねてしまうのは、テクノロジーに隷属しているわけで、分水嶺を超えた使い方かもしれないと感じました。

石井:最後に今日これまでのお話も踏まえて、お二人から若い世代のクリエイターやデザイナーに向けて、メッセージをいただけますか。

緒方:自分でいろんな体験をする、全部をやってみることが大切だと思います。僕が学生の頃にインターネットが出てきて、自分でホームページを作ったりコーディングを勉強したりして、それが今振り返ってもすごくエキサイティングな時間でした。

今の時代、プロセスの途中の手段だけに特化していると、それこそAIと簡単に置き換えられてしまうかもしれない。だからこそ、どこか一部だけでなく、“全体”を自分の手でやってみることが大事なのかなという気はしています。

色部:旅をすることをお勧めしたいですね。僕は20代のときにかなり長い旅をしたことがあるんですが、実際に世界を見に行くと、「自分の知らない世界がこんなにあるんだ」という感覚が生まれる。インターネットで調べればなんでもわかった気になってしまいますけど、実際にその場所で感じてみるとインターネットではわからない、フィジカルな体験が得られる。そういう経験を積んだ分だけ感性が磨かれて、色々なことを判断していくときの基準も変わると思うんです。

石井:自分で考えて、体感してみる。感性を磨くことも大事ですよね。お二人のお話を伺っていて、まさにそうした姿勢を大切にされていることが伝わってきました。本日はありがとうございました。

【Credit】
Photographer : Uchino Hideyuki
Writing : Kurimura Tomohiro

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