ノーコード & AIの時代に、デザイナーは何ができるのだろう?
"人間が新しいコンセプトを発想し、テクノロジーが80点のアウトプットを出す。それを120点に仕上げるのがデザイナーの役割です(石井)"
赤松 健次(飛企画)x 石井 穣(STUDIO CEO)
KENJI AKAMATSU × JOE ISHII
"人間が新しいコンセプトを発想し、テクノロジーが80点のアウトプットを出す。それを120点に仕上げるのがデザイナーの役割です(石井)"
赤松 健次(飛企画)x 石井 穣(STUDIO CEO)
"人間が新しいコンセプトを発想し、テクノロジーが80点のアウトプットを出す。それを120点に仕上げるのがデザイナーの役割です(石井)"
赤松 健次(飛企画)x 石井 穣(STUDIO CEO)
KENJI AKAMATSU × JOE ISHII
STUDIO DESIGN AWARD 2022のグランプリ受賞者、赤松健次の拠点広島で、「ひろしまクリエイターズギルド」主催によるノーコードウェブ制作をテーマにしたトークイベントが開催され、STUDIO CEOの石井との対談も行われた。そこで聴衆も巻き込んで盛り上がったテーマが、ノーコード時代のデザイナーの役割について。その翌日、さらに議論を深めるために、改めて2人で対談を行った。
赤松 健次 (飛企画 代表)/ 写真右
ブランディング構築 / マーケティング戦略 / 情報設計 / クリエイティブ業務 / アドバイザー / 大学教員
STUDIO DESIGN AWARD 2022グランプリ受賞。ブランディング主軸の情報設計・戦略提供する中で、2022年からノーコードツールであるSTUDIOに制作基盤を移行。同年、正式パートナー認定。
石井 穣 (STUDIO CEO)/ 写真左
デザイナー兼エンジニアとして学生時代にWeb制作会社を設立。その後旅行サービス「Travee」を創業し、2年間に渡ってバンコクに移住し事業を展開。その後国内大手旅行会社に事業売却。2016年12月にFounderの甲斐と出会いSTUDIOに参画、代表取締役に就任。現在の主な役割はブランディングとビジネス戦略。
デザイナーだけでなく、すべての人がデザインにアクセスできるように
──ノーコード & AIの時代のデザイナーとは、というテーマで、改めて対話を進めていただきたいのですが、そもそもデザインとは、というあたりからお話しいただけますか。

石井「僕はデザイナー兼エンジニア兼起業家だから、デザインだけをするという分業の発想は持っていなかったんですよ。デザインだけ、エンジニアリングだけというように限定せずに、誰もがデザインをすればいいと思っていた。いろいろな人がつくるから、いろいろなものが生まれてくる。デザインに対して誰もがアクセシブルであることが大切で、ウェブサイトをデザインすることも、誰もができるようにオープンにしていくべきだと思っています」
赤松「限られた人しかウェブサイトが作れないというのは、すごく機会損失になっていると思います。時々、昔好きだったアーティストのサイト見たりするんですが、昔のホームページビルダーでつくったようなままで、レスポンシブにもなっていない。もはや大御所と言えるのに、そのレベルのサイトしかもっていない。きちんとしたウェブサイトをつくるということにたどり着くための障壁がまだあるんですよ」

石井「ウェブサイトをつくるというのは、僕たちにとってはあたりまえのことになっているけれど、まだまだ大変なタスクになっている人達もいる。ちゃんとつくるのが当たり前になってほしい、全体のレベルの底上げをしていきたいんです」
赤松「僕らがサイト制作の依頼を受けて、経営者の方と膝を突き合わせて話をすると、すごい熱量で仕事も事業もやっているのがわかる。そこで、経営者の人に聞くんですよ、今言ったことの何割がウェブサイトで表現できていますかって。そうすると、1割にも満たない。9割ロスしているわけです。
僕らの仕事は、それをウェブサイトで表現する方法を考えていくことです。だけど、ほんとうは社長でも社員でも、その思いを伝えたい人が、自分たちでできる方がいい。ウェブサイトとして表現できればいいんだけど、今は限られた人しかつくれない。そこにはやはり障壁がありますよね」
クリエイティビティを阻むものを、テクノロジーで解消する
──STUDIOのようなノーコードツールとAIで誰もがデザインされたウェブサイトを作れるようになったら、デザイナーという職業はどうなるのでしょうか?

石井「つくるものを思い描けるかどうかが重要なんだと思います。仮にデザイナーのレベルが1〜100まであったとして、昔であればレベル10でもすごいと思われていたから、その人でもプロに成れた。でも今は、ツールやAIを使えば誰でもレベル80くらいにはなれるんですよ。そうすると、低いレベルの人は仕事としては成り立たなくなってくる」
赤松「これから面倒くさいことは全部ツールがやってくれるんで、僕らとしては、なにか心を動かすことにフォーカスしないといけない。面倒くさいのはAI、喜ばせるのは人間、みたいな感じになっていくんじゃないかと思います。アートや哲学、スポーツなど。

今、ビジネスで何か困ったことがあって、それを解決するのがデザインだと思われているけれど、今後は課題を解決するというより、何か人を喜ばせるものをつくるのがデザイナーになるんじゃないか。例えばみんなを集めてお祭りをやって、それを設計した人がデザイナーかもしれない。誰かが喜んだり、新しいアクションやムーブメントが起こせたら、そのデザインは正しかったといえるんじゃないか。ビジネスだけではなくて、いろいろなところでデザイナーが生まれてくるんじゃないかと思います」
──つまり、AIやノーコードツールがあれば、誰でもデザイナーになれる?
石井「ノーコードやAIの役割についてよく聞かれるんですけど、初心者でもできるようにする側面と、プロの人にとっての効率化という両面があるんですよ。
初心者にとっては、レベル0の人が80になるための最短距離を実現するということ。だれでも簡単にレベル80のものが作れるようになる。だから、プロと言われるデザイナーがつくるのは80以上のものでなければならない。そして、プロを目指す人にとっては、80になるための努力は必要なくて、80から100へなるための努力に集中できるんです。

みんな、この2つの役割をどっちかひとつに決めたがるんですけど、両方あるんです。初心者にもうれしいし、プロにもうれしい。その結果、世の中にとってより良いものが生まれてくるし、社会全体のデザインに対する意識の底上げもできるんです」
──だれもがレベル80までには到達できるということですか?
石井「僕は、人間はみんな想像力があってクリエイティビティにあふれていると思っているんです。だから、こうしたい、ああしたいという思いはあるんだけど、何かによって表現しきれていない。それを取っ払ってあげれば、だれもがデザインできるようになると思っています」
赤松「本当にそう思います。こどもたちがいるところで、この中で絵を描かける人って聞いたら全員が手をあげます、むちゃくちゃ絵が下手な子でも(笑)。でも、大人にそれを聞くとみんな、いやいや描けません、って言うんです。それはやっぱり何かが心を束縛している。スキルがない、ツールが使えないと駄目みたいな意識が、情報として自分を囲ってしまって、絵が描けないと言ってしまう」

石井「絵を描くのが好きな人は絵を描けばいいし、歌を歌うのが好きなら歌えばいい。そういったなにか創造性を阻むものが、テクノロジーの進化によってなくなっていくんだと思います」
クリエイティビティを開放するツールを目指す
赤松「STUDIOの開発にあたって、クリエイティビティの解放というのは大きなテーマですよね?」
石井「そうですね。STUDIOでコードを書かなくていいから制作の効率化ができるというのももちろん大事なんですけど、それよりも、使っていて楽しいとか、想像力がインスパイアされるようなツールにしていきたいんですよ。

僕が大学生で初めてMacを触ったとき、直感的に操作ができて、触ること自体が楽しいと思った。だからもっとMacのことが知りたくなって触っているうちに、デザインもプログラミングもできるようになった。使うツールによって思考が制限されるという面は大きいと思っていて、僕がデザインやプログラミングをMacによってできるようになったのと同じような文脈で、Webデザインをできるようにしたいと思っているんです。
赤松「『SDX研究所(生和会グループ)』(https://seiwakai-dx.jp/) のサイトは、自分でSTUDIOを触りながらつくったんですけど、オープニングの正方形のロゴが回る部分や、リンクバナーが大きく動く部分などは、STUDIOを触っていて思いついた動きですね」

石井「そうやってSTUDIOを使っていく中でインスパイアされたとか、触っていると楽しいと言ってもらえるのが、僕にとって一番嬉しいことですね。
AIはなんでもジェネレートしてくれるけれども、それだけで何かが完成するとは思っていません。あくまでAIができるのは、入力されたコンセプトに対する最初の提案だったり、思い描いているアウトプットの作業効率の向上なんです。
そこから自分で試行錯誤しながら、楽しく触れるようにすることが大切なんだと思っています」
「思考すること」がデザイナーの役割
赤松「たとえば、Photoshopをすごく上手に使いこなす人がいるじゃないですか。僕なんかが絶対できないようなすごい技を持っている。これを身につけるために苦労したことに対して、ある種のリスペクトを感じたりするわけです。でも、それがぱっと誰もが作れるようになってしまうと、デザイナーの価値というのはどこにあるんでしょう。やっぱり思考でしょうか?」

石井「思考だと思います、コンセプトづくり。作業的にちまちまやるのは、みんな自動化してしまえばいい。僕はPhotoshopってあまり得意じゃなくて、やはり作業っぽくなっているなと思う。そうじゃなくて、紙とペンで描くくらいの感覚でデザインできるようにするのが目標です。ストレスなくできるのが一番だと思います」
──そうするとノーコードツールやAI時代のデザイナーの役割は、思考すること、コンセプト作りということになってきます。その場合、デザイナーの資質とは何なのでしょうか?
石井「コンセプトの発想の背景には、美意識があります。美意識を育むためには、様々な美しいモノ、こだわりを持って作られたモノを見ないといけない。しょぼいモノしか見ていないと、発想もそこに限定されてしまう。
100点のものにもいろいろあって、Aの100点じゃなくて、BやCの100点もある。それを生み出せるのは、人間の、デザイナーの特権だと思うんです。AIには、BやCといった新しいコンセプトは生み出せない。人間が新しいコンセプトを発想して、その80点のアウトプットを出してくれるのがテクノロジーの役割で、それを100点、120点に仕上げるのがデザイナーの役割だと思うんです。
だから、デザイナーが何を学ぶべきかといえば、アプリの使い方だけを学ぶというのは本当に意味がなくて、何かを作りたいから、そのアプリなり言語を学ぶわけですよね。そういう意味でも、赤松さんは徹底して最終ゴール目線ですよね」

赤松「僕も学校で若い子たちに教えているんですけど、彼らが今学んでいるのは、道具の使い方なんです。で、その道具で何を作りたいのか、というと具体的に出てこないんですよ。犬小屋なのか、子供向けの本棚なのか。で、犬小屋だとしても、せいぜい四角い犬小屋を作る、というところくらいまでしか発想できていない。
大事なのは、その先の風景を思い描いているかどうか。単に四角い犬小屋じゃなくて、自分が飼っている犬が喜ぶための犬小屋で、完成してうわーって喜んでいる風景を思い描いて、そこから逆算して何を作るかを考える。そのためにはこれくらいの道具とスキルと材料がいるから、それを実現するための方法を学んでいく。そういうゴールに対する意思が大事なんです」
石井「明確な意思があれば、その犬小屋をああしたらいい、こうしたらいいという考え方にも一貫性があって、クリエイティブも楽しくなって、どんどんステップアップしていく達成感が味わえると思う。そうじゃないと、ただの苦労でしか無いですから」
使う人が喜ぶ姿を思い描くものづくり

赤松「石井さんのつくるSTUDIOもそうで、ユーザーが喜ぶ姿を想像しながらつくっているんだろうということを、STUDIOを使っていると端々に感じるんですよ。
インターフェイスやショートカットの設定など、ユーザーが使っていて楽しいな、という感覚を阻害しないように設計されているのがわかる。作り手の思いと、使っている僕の思いがシンクロしているように感じます。それはサポートの対応にも現れていて、みなさん『STUDIO愛』にあふれている」
石井「自分がユーザーとして使わないと、手触り感とか不便さとかわからないじゃないですか。それをウォーターフォール的な開発手法でやってしまうと、やはり使いづらいものができてしまう。僕たちはボトムアップ的な手法で、やってみてだめなら、仕様書なんてないけどどんどん改善していくというのを大切にしています」

赤松「はじめはSTUDIOも、wixなどと横並びのツールだと思って使いはじめたんですよ。ただ、使ってみるとUIもサポートもスタッフも、何かアプローチが違うんですよ。
プロダクトとしても、誰でも簡単に使えるというわけじゃなくて、ちょっと硬派に、意思をもってものをつくって欲しいという感じが表現されている。スタッフの教育も含めて、そういう戦略的なブランディングかな、とはじめは思ったんです。
しかし、石井さんやスタッフと話していると、そうではなくて、本質的にそういうことをみんなが望んでいて、その結果がブランディングとしても効果を発揮している。
結局そういうものが残っていくんだろうなと思います。時代が変わっても、本質的な部分が変わらないから、ちゃんと変化していく。オーナーシップで型にはめるんじゃなくて、中心の思想みたいなものがちゃんと共有されているから強いんだと思います」
石井「正直なところ、売上とかどうでもいい、といったら怒られちゃいますけど、つくりたいものがまずあって、そのために必要だからファンディングもやるし、ビジネス的にも成立させたいわけです。やっぱり軸にあるのは、赤松さんみたいなクリエイターがもっと活躍できる、いいものをつくる、そのための基盤になれればうれしいということですね」

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赤松 健次(飛企画)x 石井 穣(STUDIO CEO)
KENJI AKAMATSU × JOE ISHII
右:赤松 健次(飛企画)
ブランディング構築 / マーケティング戦略 / 情報設計 / クリエイティブ業務 / アドバイザー / 大学教員
STUDIO DESIGN AWARD 2022グランプリ受賞。ブランディング主軸の情報設計・戦略提供する中で、2022年からノーコードツールであるSTUDIOに制作基盤を移行。同年、正式パートナー認定。
左:石井穣(STUDIO CEO)
デザイナー兼エンジニアとして学生時代にWeb制作会社を設立。その後旅行サービス「Travee」を創業し、2年間に渡ってバンコクに移住し事業を展開。その後国内大手旅行会社に事業売却。2016年12月にFounderの甲斐と出会いSTUDIOに参画、代表取締役に就任。現在の主な役割はブランディングとビジネス戦略。